2月14日の告白

春羽 羊馬

第1話 計測ミス

 自宅の玄関で愛用の白いスニーカーに足を入れる。

 つま先を何度か床に打ち付けつつ傍に置いておいた赤いマフラーに手を伸ばし、それを自身の首に巻き付けていく。

 学校指定のカバンを肩にかけ、リビングにいる家族に聞こえるくらいの声量で「行ってきます!」と口にし、扉を開けうちを出る。

 「さっむ⁉」

 家と外の気温差にビックリした俺・阿礼あれい実架みかは、思わずその気持ちを吐露していた。

 口から出る白い息が視界に映るもそれは一瞬で冷たい風に溶けていく。

 俺は寒さから両手を守るように上着のポケットに突っ込み、いつものように学校への通学路を歩き始めた。

 時刻は朝の8時過ぎ。上空を灰色の雲が覆う中、それらが作りだす小さな隙間から青い景色が見え隠れする今日このごろ。

 毎日のように眼にする通学路も今日は一味違った姿になっていた。

 昨夜発生していた大雪によって、住宅の敷地からはみ出る草木や公園の砂浜に積もっている白い雪。道端でキラキラと輝きを放つ透明な雪。

 自然が一夜にして作り出した白い景色は、町の至るところに広がっている。そんな不思議な日でも俺は、今日も同じ時間にこの交差点で立ち止まる。

 ここの信号は青の時間が極端に短く、こんな日でもそれは通常運転だった。

 信号が赤から青に変わるのを待ちつつポケットから出した両手を口元に当て、その手へ向け息を吐く。

 自分の吐いた息から感じる僅かばかりの体温で朝の寒さを和らげようとする。

 パッポー、パパッポー。パッポー、パパッポー。

 信号が赤から青に変わり、信号機から鳥の鳴き声のような電子音が鳴り響く。

 青信号を視認した俺は、その横断歩道を足早に渡り切る。なんせここ信号は、青の時間がたったの40秒しか無いのだから。(自分で計測した)

 横断歩道を渡り切り反対側の歩道に足をつける。振り返ると青信号はもう点滅を始めていて、今にも赤に変わりそうなところだ。

 「…3…2…1」

 口ずさむカウントが0を知らせると同時に青信号が赤に…変わらなかった。

 「あれ?」

 カウントを辞めた俺とは対照的に青信号は、まだ点滅している。

 パッポー、パパッポー。パッ、

 鳴き声のような電子音が止み、信号が青から赤に変わる。

 「あ、変わった。…7秒くらいか」

 青から赤に切り替わったタイムを頭の中で逆算する。

 (まぁ、こんな日もあるか)

 俺は自身の計測ミスにそう結論付け、再び学校へ向け足を進める。けど後から思うにこの時から俺の日常が変化し始めていた。

 道に残っている雪も信号の計測ミスさえ、その序章はじまりに過ぎなかったのだと。

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