他人の不幸は蜜の味、自分の失恋は塩辛い

山代悠

第1話 導入・生き別れした話

はじめに、本作に目を通してくださっていることに感謝申し上げたい。

タイトルからして、読んだところでこれといった生産性はないように感じるこの作品を読んでくださるのは、筆者としては僥倖ぎょうこうであり、読者の皆様に1人1人謝意を伝えたいくらいである。


謝辞はこの辺にして、本作のコンセプトや内容について簡単にご紹介させていただこうと思う。

まずこの作品では、私の失恋話を中心に物語が進んでいく。

基本的には、筆者である私が語っていく形だ。


他人の不幸は蜜の味というが、自分の失恋話は塩辛いものだ。

今回は4つばかり失恋話を披露しようと思う。(まぁ披露するようなものでもないのだが)


一気にお話してしまってはおもしろくないし、読者の皆様も読むにあたって疲れてしまったり、ただでさえ内容も表現も初心者のそれだというのに、読むのにさらに苦労してしまう、という事態を避けるためである。


前置きはさておき、早速お話の方を始めて行こうと思う。

(ここからは、感情移入したくなるような辛い話も出てくると思うが、あくまで他人の独り言と思って、気軽に聞いてほしい。Don't take it personaly. だ。)


では始めよう。

今からの話にタイトルをつけるとするなれば、「生き別れの彼女」だ。

別に、涙なしには語れない過酷な別れ方をしたわけではない。

当時好きだった女の子の親御さんの転勤で、海外へ移住する運びとなり、自然と私の恋も終わった、という話だ。


当時、僕らは小学2年生。

人づてに、彼女が転校するという噂を耳にし、俺は気が気でないという状態に陥ってしまった。


とある掃除の時間、僕と彼女は一緒に教室の入り口の近くで、ぞうきんを絞っていた。

聞くなら今しかない、と意気込んで、僕は聞いた。

「ねぇ、転校するってほんと?」

「うん、本当だよ」

彼女は存外あっけなく答えて見せた。


転校なんかしない、噂なんか嘘だ。

と、言ってほしかった自分が、どこかにいたのだろう。


小学2年生の小さな体に、計り知れない大きなショックは襲い掛かる。

俺はその場でフリーズしてしまい、手の中のぞうきんからバケツに水が滴る音がした。


それはもしかしたら、涙だったのかもしれない。


転校の日は、思ったよりもすぐにはやってこなかった。

僕たちが3年生に進級した最初の終業式、つまり、夏休みの直前に、その時は訪れた。


あいにくクラス替えで僕たちは別々のクラスになり、廊下で時たま見かけることこそあれど、会話をする機会は全くなかった。


終業式は広い体育館で行われる。

僕はクラスの列に並んで移動する。


体育館には、既にほかの学年、他のクラスが隊列をなして整列していた。

時折、先生が列全体に大きな声で指示を出す。


僕のクラスは、ステージの上手かみて側の体育館の床に直線状に並んでいた。

そこで僕は、目を見張った。

僕のすぐ右隣り、体育館の壁に沿って座る一人の女の子を見たからだ。


そう、他でもないあの子だった。

きっと、転校する生徒は名前を呼ばれるから、そこで待たされているんだなと思った。


今でも僕は、1人で並ぶ彼女の、寂しそうな、それでいて僕に何かを伝えてくるような目を、忘れられない。


そして、なぜあの時声をかけてあげられなかったのか、と、今でも後悔する日が、時々ある。


第1話 おしまい

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