第25話 男子校生とバレンタインデー
美幸に浮気と疑われ、一方的に詰られて別れた数日後
傷心の俺は、中学時代の友人 ― 服部 郁美に誘われてカラオケに来ていた。
5人居るのに何故か男は俺だけで肩身が狭い。
なんでこんな状況になってるのかというと。
昨日、服部からこんなメッセージが送られてきたからだ。
「ねえ、浮気して美幸と別れたってほんと?」
当然、俺はこう返した。
「浮気してねえよ!誤解だよ!」
「へぇー誤解されて別れちゃったんだ。折角、誕生日に頑張ったのにねえ」
ニヤニヤする服部の顔が想像出来た。ちょっと可愛いからってイライラすんぜ。
ってなんでこいつが知ってんだよ。誰にも話してねえんだけど…美幸か。
美幸が服部は友達だって言ってたけど、引越してからもまだ付き合いあったのかよ。何でもかんでも話してんじゃねえぞ。
服部のせいで思い出しちゃってクソ恥ずいんだけど…
「まぁ、それは良いとして。そんな傷心の浅井に朗報だよ」
「お前のせいで思い出しちゃったから良くねえよ。チクショー…で朗報って?」
「明日の放課後、カラオケに行きます」
「なんで?」
「カラオケに行きます」
「誰と?お前と二人?嫌だよ!」
「嫌じゃない。私と私の友達と行きます」
「どうせ断っても無駄なんだろ?いいぜ、行ってやるよ」
「じゃあ、明日16時に西口で。あと最低二曲は歌覚えろ」
電話が切られた後、幾つかの名前と曲名が書かれたメッセージが送られてきた。
そりゃあ必死で覚えたよ、二曲だけ。
因みに俺の好きなジャンルの曲はカラオケに存在しねえ。
近しいジャンルの曲は存在するんだけど、何でか同窓全員から禁止令が出てて歌えねえんだ。イジメかよ。
――――――――――――
そして、現在
「さあ、早く座って座って」
服部の声に、ぞろぞろと入って行く俺たち。
「浅井はここ」
なんでお誕生日席なんだよ。ケーキねえぞ。
ここに座らせるってことはやっぱアレか、浮気疑われてフラれた記念なのか?
俺は本日の主役とかいう襷掛ければ良いのか?
「なあ、服部。一つ聞いても良いか?」
「え?なに?私は彼氏居ないよ!」
「違えよ、彼氏の有無聞きてえわけじゃねえ。なんで4人で来てんだよ、普通、俺入れて三人だろ、常識的に考えて」
ポンっと手を打ち、服部
「あ、常識的に考えて…女子高生と掛けたわけね、JK」
「そうじゃねえよ!いつの生まれだよ、昭和かよ」
「私、令和だよ」
「頭の中身がな」
残りの3人にクスクス笑われる。
こんな奴と下らねえ掛け合いやってる場合じゃねえ。
「浅井君だっけ?本当は、郁美と加代の二人で来るはずだったんだけど、私らも暇だったんで付いてきちゃったんだー。ごめんね」
「うちらとしても郁美ちゃんの友達いっても心配だしさ。加代って見るからに大人しそうじゃん?だからさ、浅井君見とこうと思ってね」
確かに加代って呼ばれてる子は大人しそうだけどさ、なんか影薄くない?ちゃんと存在してる?あと、この二人もお近づきになりたくねえタイプだしよ。連れてくる前に写真ぐらい見せて欲しかった…服部にドキドキはしねえけど、安心感は覚えるな。これがあの有名な吊り橋効果?
この二人…橋本と倉渕だってよ…と嫌々ながら、割とどうでもいい話を色々した結果。残念ながら、橋本と倉渕の俺への好感度が上がった気がする。なんでだよ。
逆に加代って呼ばれてた子…柊 加代子って名前らしい…とは、あんまり話せてない。服部や橋本、倉渕の三人は、やたらと柊さんを俺の隣に座らせたり、話をさせようと仕向けてくるんだけど、見た目通り大人しい性格なのか根が暗いのか、何を聞いても「うん」で終わっちまって会話が成り立たねえ。お前らいつもどんな会話してんの?柊さんって本当に存在すんの?いま流行りの生成AIとかじゃねえの?
そうこうするうちに時間も終わりに近づき、延長する事も無く店を出た。
歌?ちゃんと二曲は歌ったぜ、三曲も覚えてねえから辞退したけど、服部の目がヤバかったんで後で殺されるかもしれねえ。最低二曲は覚えろって言っておいて三曲覚えてねえから殺されるって理不尽過ぎねえか?ドキドキすんぞ…あ、やっぱこれ吊り橋効果狙ってんの?やめろよ、服部、惚れるだろ。
――――――――――――
「じゃあ、私たち帰るね~。加代~、浅井をよろしくね」
と、服部が橋本と倉渕を引き連れて駅へ向かって行った。
どうする、俺。
「私たちも行こっか」
柊さんは、いきなり俺の手を取り駅とは反対側の公園に向かって歩き始める。
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