第23話 男子校生と新玉ねぎ
あれは忘れもしない春の夜の出来事だった。
この日も朝から眠く、春眠暁を覚えずとはよく言ったものだと9時頃にベッドに潜り込みウトウトしていたら、スマホの振動で飛び起きた。
誰だよ、勝手にバイブ設定したやつは。
「誰ですかこんな夜中に…」
「あたしだよ、あ・た・し。直樹くーん、ハロー。まだ10時だよ」
こいつ、先輩の彼女の渡辺さんだ…仲間内で魔王と恐れている傍若無人な人で皆迷惑してるって話だったよな。先輩も押し切られて付き合ったって聞いたし。
なんで俺の番号知ってんだ…ってこの番号、先輩のスマホか。ちくしょう。
先輩って言っても石田先輩や小澤先輩とはまた別の先輩で、隣県の大学に通っているんだけど、通うの面倒くせえとか言って大学近くに下宿している先輩だ。
「もう10時なんで寝てるんすよ、俺」
「あたしは直樹君とも遊びたいから遊ぼうよ。あ、ちょっと「もしもし、浅井か、俺だ。石川だ。今、大丈夫か?寝てた?寝てたところ悪いな。あいつがどうしてもお前とも遊びたいと言ってきかないんだ。皆で止めたんだが、迎えに行くと言ってもう既に俺の家から出ている」そんなわけだから迎えに行くからねー」
「え?俺ん家来るとかマジやめてくださいよ」
「じゃあ、何処かで待ち合わせでもおけだよ」
家バレよりはマシと地元駅からもう一つ先の駅で待ち合わせする事にした。
「茅葺町駅ってわかります?そこで待ち合わせって事で」
「おけおけ、あと30分位で着くかんね、よろー」
あ、切りやがった。
先輩たちの彼女って頭おかしいの多くね?
やばすぎんだろ…全員揃ったら地獄だな。俺は全力で逃げたい。
とはいえ、今回は行かないと家に迎えに来そうだから逃げらんねえ。
あーあ、風呂入ったのに出掛けるとかマジ嫌すぎるんだけど。
交通違反で捕まってくんねえかな。
ん、また着信が…
「はい?」
「あははははは、直樹君、ごめん。道迷って30分じゃ着かない。ナビよろ」
「どこ走ってんすかー」
「んとね、河越屋って看板が見える」
店の名前言われたってわかんねえよ。くそっ
「他には?」
「馬道北って交差点で止まってる」
ああ、あそこか…以外と遠くねえな。戻るのは簡単だ。
「いいっすか、そこの交差点を右に曲がって、そのまま真っ直ぐで、何個か通り過ぎたら御堂二丁目って交差点があるので、そこを左に曲がって、真っ直ぐ進んで行くと茅葺町駅の交差点に着きますんで」
「りょー。適当に進むわ」
適当じゃねえよ、言われた通り進めよ。
ま、先輩もいるし大丈夫だろう。
急いで着替えて駅に向かう。
まだ、着信無いから着いてないっぽい。
とりあえず来た電車に乗って隣の駅に向かう。
は?逆方面?快速?そんなの乗らねえよ。馬鹿にすんなよ。
約束の駅に着いたけど、居ねえ。
車が一台も停まってねえ。
人も帰宅する人しか居ねえ。
まじかよ…
待つこと20分後、一台の車がやってきた。
助手席の窓が空き、先輩が手を振ってくる。
先輩が運転してんじゃねえのかよ。
「遅くなって悪かったな」
「20分待ったっすよ」
「ま、乗れよ」
後部座席のドアを開ける…へ?
見慣れた顔が二人ほど乗ってる。
「「よぉ」」
「なんで先輩たちも乗ってんすかー」
石田先輩と小澤先輩が乗ってた。
「「いやー俺らも迎えに来られてよ」」
「直樹君も早く乗りなよ、出発するよ」
「うす」
乗った瞬間走り出した。
まだドア閉まってねえよ。
「どこ行くんすか」
「えっとね、貴志の家」
先輩の家か。
「何するんですか?」
「みんなでムリカ―する」
あの国民的ゲームをやるんすね。
「眠かったら寝てていいよー、着いたら起こすから」
お言葉に甘えて寝る。
――――――――――――
「痛てっ」
「直樹君、着いたよー」
渡辺さんに叩き起こ…叩くっつーより殴り起こされた。
「お邪魔しまーす」
先輩の家に上がったけど、中途半端に寝たせいか眠い。
早速、皆でゲームをやり始めたんだけど、頭がボーっとしてて、何度やっても勝てねえ…あれ、ずっと最下位じゃね。
「うへへへ、直樹君、よっわ。弱すぎー。ザーコ、ザーコ」
先輩の彼女は上機嫌だった。
「おい、お前、本当に眠そうだな。無理させんのも悪いし、眠かったらこれ使って寝てていいぞ」
そういって毛布を貸してくれたので、毛布に包まる。
先輩は女の趣味クソ悪いけど、良い人なんだよな…
ぽかぽかして、瞼が閉じてくるー。
あー、マジ寝そう。
意識が朦朧としてくる。
遠くで渡辺さんの声が聞こえた。
「辛えー、新玉ねぎ、ちょーうめー」
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