悪の秘密研究所を壊滅させたら、実験体の少女に懐かれたんだが……。若き凄腕エージェント・ムラサメはある日突然、1児の父となる。
第29話「可愛い娘をお前らみたいな怪しい男どもにはやれるわけがないだろ。100年早い。出直してこい」
第29話「可愛い娘をお前らみたいな怪しい男どもにはやれるわけがないだろ。100年早い。出直してこい」
8人のうち4人は見るからにキョロキョロと落ち着きなく&せわしなく周りを気にしている。
その動きから8人のうちの半分は素人だということを、俺はこの時点で見抜いていた。
おおかた闇バイトか何かで集めたんだろう。
ってわけで、敵は実質4人か。
しかも運転手まで降りてきている。
本来ならすぐに車を動かせるように、運転手は乗ったままでいるのがセオリーだ。
おそらくは、人数の差を見せつけようとしているんだろう。
数の多さはそれだけで十分すぎる脅しになるからな。
だがそれも半分が素人ではたいして意味はない。
まあ別に?
8人が全員プロの傭兵でも、俺は負ける気はしないがな。
というわけで。
車を降りた俺は、8人の黒スーツ相手にも特に気負うことなく問いかけた。
「イヨンモールからずっとつけてきたみたいだけど、なにか用か?」
「その子供を渡せ」
するとリーダーと思わしきスキンヘッドが、ドスのきいた低い声で脅すように要求を告げてくる。
「いきなり何を言ってんだ。うちの可愛い娘をお前らみたいな怪しい男どもに、やれるわけがないだろ。100年早い。出直してこい」
「
スキンヘッドは胸元から銃を抜くと、
バンっ!
俺をめがけてためらうことなく発砲した。
「おっと。割と様になってるじゃないか。エイムもまぁまぁ及第点だ。ためらいなく撃つ度胸も悪くない。が、その程度じゃ俺にはかなわないぞ?」
俺へと向かって放たれた弾丸は、しかし俺に当たる直前に俺の体表面を覆う魔法のバリアによって受け止められて勢いを失うと、コトンと軽い金属音を立てながらコンクリートの地面に落ちる。
当たり前だが、車を降りた時点では戦闘モードに移行済み。
物理への防御魔法を展開済みだ。
「ならばこれでどうだ! お前ら撃て!」
スキンヘッドの命令で、部下の黒スーツたちが次々と魔力銃を取り出して発砲する。
小さな稲光のような雷光が見えた。
相手を感電させて行動不能にする雷撃系の魔法が込められた弾丸だ。
「リジェクト」
しかし俺が一言つぶやくだけで、展開しかけた雷撃魔法は音もなく消え去った。
「くっ!? 魔法弾がかき消されただと!?」
「なんだ、クライアントから俺が誰なのか聞かされていなかったのか?」
俺はこの時点でおおいに落胆した。
半分が素人だったことといい、俺が誰なのかを知らなかったことといい、こいつらが完全な捨て駒だと分かったからだ。
成功すればラッキー。
失敗しても俺たちへのプレッシャー程度にはなる。
そんな程度の使い捨て上等の鉄砲玉、それがこいつらだ。
逃げた研究者の居場所など有益な情報でも持っているかと思って誘い出してみたが、完全に無駄手間だったな。
もうこいつらと話しても意味はない。
さっさと片づけよう。
「魔法無効化能力……? まさか最近、裏社会で噂のカケル・ムラサメか!」
「正解。それくらいの知識はあるんだな」
「ちょ、嘘だろ!?」
「イージスのエースが相手とか、1億貰っても割に合わねぇよ!?」
黒スーツたちは狼狽したように騒ぎ始める。
やれやれ、しょせんはこの程度の奴らか。
分かっちゃいたがな。
「通常の銃弾は魔力障壁で無効化し、魔法銃は魔法を無効化する固有魔法リジェクトで無効化する。悪いがお前らに勝ち目はないぞ?」
「うぐっ……!」
闇バイト素人4人組はまだ意味が分かっていないみたいだが、それなりに裏社会で生きてきたであろう残り4人は、全員が完全に気圧されてしまっているのが目に見えて分かった。
「ってわけで、今度はこっちから行くぞ。サファイアが待ってるからな。1分で終わらせる」
俺はそう言うと、魔法格闘戦を開始した。
「ぐあっ!」
「げほっ!」
「ぐふ!」
打撃とともに魔力を叩き込んで過干渉を起こし、たいして時間もかけずに8人全員を無力化する。
「ま、素人4人&ちょっとマシなチンピラ4人程度ならこんなもんだろ」
ちょうどそのタイミングで、黒塗りのバンが4台連なってやってきた。
敵の増援――ではなくミリアリアが呼んだイージスの回収部隊だ。
「ムラサメ隊長、ご苦労様です。大立ち回りだったようですね」
「そんなに大した相手でもなかったよ。それで悪いんだけど、サファイアとミリアリアを待たせているから、手短に説明するな――」
俺は見知ったイージス隊員に簡単に事情を説明して、状況を引き継いだ。
あとはイージスのバックアップ部門が、拘束から尋問まで全部うまいことやってくれるだろう。
尋問しても何も知ってはいないだろうが、何も知らないことを確認するためにも、尋問しないわけにいかないからな。
というわけで、なんなく事を終えた俺が車に戻ると、サファイアが興奮した様子で抱き着いてきた。
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