第13話 こうして俺は、ミリアリアとサファイアと一緒にお風呂に入ることになってしまった。

 晩ご飯とデザートのアップルパイを食べ終えた俺は、


『わたしがやりますから』

 というミリアリアを制止して、皿洗いを始めた。


 こんな美味しい料理を作ってくれたミリアリアに、さらに後片付けまでさせるだなんて、さすがに人としてどうかと思う。


 ミリアリアはお風呂が沸くのを待ちつつ、その間に休憩がてら、サファイアと一緒にテレビで夜のバラエティ番組を視聴していた。


 今はユニバーサルランドという人気の遊園地の特集をしているようだ。


「ゆうえんち、たのしそう! いきたいな~」


「すっごく楽しいわよ。でもごめんね。この近くにはないのよね。ちょっと遠出になるからすぐには行けないかも」


 ここから車で30分もかからないイヨンモールに遊びに行くくらいなら、なにかあってもイージスがすぐに対応可能だが、遠く離れた遊園地まで行くとなると、さすがに難しい。


 少なくとも逃げた首謀者を捕まえ、サファイアの安全を確実なものにしてからでなければ、遊園地に連れていくことはできなかった。


「そうですか……(*'ω'*)」


「でもいつか絶対に連れて行ってあげるから、楽しみに待っててね」


「うん! それでママと、むらさめと、いっしょに、ジェットコースターに、のるの!」


「サファイアはジェットコースターが好き?」

「ビューン! クルクルって! テレビですごかったから! すごく、のってみたい!」


「ふふっ、実はわたしもジェットコースターが大好きなんだよね。スリルがあって楽しいわよ?」


「ママも、サファイアと、いっしょですね!」


『それでは次のコーナーに――』


 ちょうど番組が一区切りついたところで、お風呂がピー、ピーと2回なった。

 お湯張りが終了したという合図だ。


「おーい、2人とも。お風呂が沸いたみたいだから、2人で先に入ってくれ」


 ここはやはりレディファーストだろう。

 男の俺が入った後に入るのは、ミリアリアも嫌だろうから。


 俺は特に深い考えもなく、いたって普通の提案をしたのだが、


「?? むらさめも、いっしょに、おふろに、はいるよね?」

 サファイアが不思議そうな顔をしながら言った。


「ああいや、2人で先に入ってくれ。俺は後から入るからさ」

 しかし俺が別に入ることをやんわりと提案すると、途端に、


「ええっ? どうして……?」

 サファイアは捨てられた子犬みたいな不安そうな顔になってしまう。


「いや、まぁ、その。俺がミリアリア――ママと一緒に入るのは少々まずいかな、と。だから俺はあとでいいよ」


 そしてこの一言が最後の決め手となってしまい、サファイアの紅の瞳が目に見えて潤みはじめた。


「どうして……むらさめも、いっしょが、いい……」

「ああ、いや、その。そうは言ってもだな……」


 いくら任務と言えど、これは超えてはならない一線を越えていると思うんだ。

 ――ってことはサファイアには言えない、こっちの勝手な、いわゆる大人の事情なのだが。


「ママと、むらさめと、いっしょが、いい……」

「う、むむ……」


「やくそく、した……のに……」


 ああああ!

 ほんとに泣いちゃう!


「み、ミリアリアママさえよければ、俺はぜんぜん構わないぞ~?」


 サファイアの悲しそうな顔を前に、これ以外の言葉が言える鬼畜外道の人でなしがこの世にいるだろうか?(いや、いない)


「わたしは構いませんよ」

 そしてミリアリアは悩む素振りすら見せずに即答した。


 さすがに頬は朱に染まっていたが、この肝の座り様はさすがは俺の頼れる右腕といったところか。

 本当にすごい女の子だよ、ミリアリアは。


 それでもかなり無理をしているだろうということは察せられた。

 ミリアリアとはダイゴス長官に拾われてすぐに知り合ったから、もうかなり長い付き合いだからな。

 何気ない態度からも、それくらいのことは分かってしまう。


 部隊の隊長をやっているだけあって、自分で言うのもなんだが、俺はわりかし察しのいい男なのだ。


 ミリアリアと一緒にお風呂に入ることが任務であることを、俺は心の中で改めて己に言い聞かせた。


「やった!」

 そして涙目から一転、ヒマワリのような力いっぱいの笑顔になるサファイア。


 こうして俺は、ミリアリアとサファイアと一緒にお風呂に入ることになってしまった。


 なってしまったのだ!

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