オペレーション『New Family』(新しい家族作戦)
第22話「くるま、わくわく!」
翌朝、俺はいつも通りの6時ちょうどに目を覚ました。
目覚まし時計が鳴らなくても、どれだけ疲れていても、俺は必ずこの時間になると自然と目を覚ます。
イージスのエージェントとして長年、己を律してきた結果であり――ただ朝起きるというだけなんで、たいしたことではないんだが――俺はこのことを内心ひそかに誇りにしていた。
しかしいつもの時間に目覚めた俺の目に映ったのは、見知らぬ天井だった。
「俺の部屋じゃないぞ……? イージスの宿直室でもない。いったいどこだ、ここは?」
わずかに逡巡したのち、昨日の記憶を思い出す。
「そうか。オペレーション・エンジェルで、ミリアリアとサファイアと家族になって、新しい家で一緒に寝たんだ」
顔を横に向けると、可愛らしいサファイアの寝顔と、幸せそうなミリアリアの顔が目に入る。
「さてと、どうするかな……」
ベッドから出ると2人を起こしてしまうかもしれない。
なんてことを考えていると、ミリアリアの目がパチッと開いた。
「…………あ、そっか。おはようございます、カケル」
ミリアリアは俺と同じようにわずかに考えるような間を持った後、小声で俺に挨拶をする。
「おはようミリアリア。悪い、起こしちゃったか?」
「いえ、もう半分くらい起きかけていましたから、気にしないでください。それにいつもこれくらいの時間に起きてますし」
「お、おう。ならよかった」
ベッドの中で少しだけ眠そうな目をしながら、ふわっと優しく微笑んだミリアリアを見て、俺は思わずドキリとしてしまった。
昨日から俺は少し変だ。
ミリアリアのことを妙に意識してしまう。
任務ってことをつい忘れそうになる。
おそらく夫婦(仮)として一緒に過ごすことで、俺はミリアリアの魅力を改めて感じているのだろう。
だがこれはあくまで任務なのだ。
下手なことはできないし、してはいけない。
任務中に副官に手を出す隊長とか、ダメを通り越してもはや最悪だからな。
「どうしましたか、カケル?」
「なんでもない」
「ふふっ、へんなカケル」
「お、おう」
なんて会話をしていると、
「うにゅ……ふわぁ……おきた」
サファイアが大きなあくびをしながら目を覚ました。
「おはようサファイア」
「むらさめ、おはよう」
「サファイア、おはようございます」
「ママ、おはようございます」
俺たちが声をかけると、サファイアは幸せそうな顔で挨拶を返してくる。
「ぐっすり寝れたか?」
「うん。むらさめと、ママがいたから」
「そっか。じゃあもう起きようか。顔を洗って朝ご飯を食べよう」
「はーい!」
◇
ミリアリアとサファイアが着替えたり身だしなみを整えている間に、俺が朝食を作る。
といっても、ハムとチーズのサンドイッチ、目玉焼き、レタスとキュウリとミニトマトのサラダ。
ドリンクはカフェオレ(サファイアはハチミツを入れたホットミルク)という、ごくごく簡単なものだ。
ちょうど出来上がったタイミングで、着替えたミリアリアとサファイアがやってきて、みんなで朝ご飯を食べる。
「どうだ、美味しいか?」
「おいしい!」
サファイアはサンドイッチを両手で鷲掴みすると、口元を汚しながら一生懸命食べながら答える。
「こーらサファイア。ちゃんと飲み込んでから、話しましょうね。できる女のたしなみです」
「もぐもぐ…………うん!」
「はい、よくできました」
「サファイアは、できるおんな、なので!」
なんとも微笑ましいやりとりだな。
見ているだけで朝から幸せを感じられるよ。
「昨日も言ったけど、食べ終わって歯磨きをしたらいい時間だから、みんなでイヨンモールに行こうな」
「イヨンモール! いっぱいおみせ、あるところ!」
「よく覚えてたな。イヨンモールでわんわんのぬいぐるみを買おうな」
「うん!」
朝食を食べ、歯磨きをし、よそ行きの服に着替える。
ミリアリアとサファイアより一足先に着替えた俺は、庭の隅にある車庫へと向かった。
車庫に止めてあった車を間近で見て、すぐに俺はその異様さに気が付いた。
「これってまさか、オリハルコンでできた防弾仕様の装甲車か? それもタイヤまで全て、魔法弾と実弾の両方を防ぐ特別仕様だぞ」
パッと見はただのファミリーカーだが、荒事に慣れた人間が見ればすぐにその特異さに気が付く。
興味が湧いたので、ボンネットを開けてエンジン回りを確認してみると、大型のエンジンとターボチャージャーが2つ、ドンと搭載されていた。
「おいおい、V12ツインターボかよ。レースでもするのかよ? パッと見だけがファミリーカーなだけで、中も外もカリッカリのモンスターマシンじゃないか。こんなの誰が用意したんだ?」
さすがはオペレーション・エンジェルのために用意された車だ。
これなら狙撃にもカーチェイスにもなんなく対応できる。
俺が感心していると、そこへミリアリアとサファイアが手を繋いでやってきた。
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