一方その頃……――⑥
それにしても、ここはどこなんだ?
ダンジョン内という事は分かるんだが、いかんせんこんな壁の色を見た事がないからな……。
それに、さっき物凄い鳴き声が聞こえたし、恐らくかなり下の方の階層なんだろう。
早く上がらないと。このままでは死んでしまう。
「クソッ、アイツのせいでっ……!」
アイツのせいで俺がこんな所に……!
『ドゥジュウベラルボォォォォォォォ!』
「!?」
ち、近い!
俺はすぐさま近くの岩陰に身を隠し、鳴き声がした方向を見る。
そこには、口の部分に大量の触手がウネウネと付いた、巨大な牛だった。ただ、目は見開かれており、白目の部分は赤い血管が目立つ。
そしてその目はぐちゅぐちゅと音を立てながら辺りを物凄い速度で見渡していた。
恐らく、俺を探しているのだろう。
(何なんだよ……何なんだよあれ……!)
『ビルジャヴフホォォォォォォォ!』
牛のモンスターはそう鳴いてどこかへ行った。
「っはぁ! はぁっ!」
恐怖と困惑で涙と鼻水を垂らしながら息をする。
あんなのに襲われたら……勝てる訳無いじゃないか……!
「とにかく、あのモンスターに見つからない様に移動しないと……」
涙と鼻水を拭き、少し姿勢を低めに立ち上がる。
まずはユミルとギリダスを探さないと……!
三人いれば、この状況も何とかなる筈だ!
「そしたらここを出てアイツを見つけ出して……ははっ、最高だな」
目標があれば、人は大抵の事は出来ると言うが……この目標だけは絶対に達成しないとな……!
「……行くか」
そうして俺は、ゆっくりと歩き出したのであった。
◾️ ◾️ ◾️
「はぁ……一旦休憩だ」
数時間歩き続けて、小さめの洞穴を見つけたのでそこにて休憩する。
あの後、沢山のヤバそうなモンスターに出会った。
尻尾をチェインメイスの様に攻撃する兎のモンスターに、目が爆弾でそれを飛ばしまくりながら空中を泳ぐデメニギスの様なモンスター。そして、巨大なカメレオンの様なモンスター。
どれも聞いたことも無いモンスターだった。
(本当に……ここはダンジョンのどこなんだ……)
空気も物凄く重い……。
というかユミル達はどこだ? もしやこことは違う階層に送られたか? だとしたら中々面倒だな……。
まあ、その可能性を考えていたって仕方ない。ここで体力を回復したらすぐ探索を再開しよう。
『ギュウジュルボウボボボボボボボボボボボボボボ!』
! 近い……! 洞穴の隅に寄って置こう……!
『ボウボボボボボボボボボォォォォォォォ!』
というかさっきから物凄い鳴くな。何だ? 何かあ――
「っ!」
目の前にいたのは、巨大な人型のモンスターだった。だが、首から上はまるで鉛筆で殴り書きした様な線の様な物がウネウネと動いていた。
そしてそのモンスターは……
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
すぐに洞穴の隅に戻って口に手を当てて呼吸音を聞かれないようにする。
何だアイツ……! アイツ何で……!
あの牛のモンスター喰ってるんだよ……!
ゴボベギバギィッと骨が砕かれる音がする。
チラリと覗くと、上のグニョグニョの部分にあの牛のモンスターが嫌な音を鳴らしながらゆっくりと消えて行く。
あ、あんなのがこの階層にいるのか……? か、勝てる訳ない……あんなのに、勝てる訳がない……。
「あ、あぁ……」
恐怖で自然と声が出てしまい、慌てて口を抑える。
もう一度チラリと見ると、どうやら自身の咀嚼音で聞こえていなかった様だ。
あ、アイツがここを通り過ぎるまで待とう……そうしないと死ぬ……。
『グルシュベェルラボォォォォオオオオオ!』
ズシン、と音を立てながら黒い人型のモンスターが歩き出す。
一歩歩く度に地面が物凄い揺れる。
ヤバイ……恐怖で体が……震える……!
さっきから座ってるのに膝が笑いまくってやがる! クソッ!
…………落ち着け俺……大丈夫だ……バレなきゃ死なない……バレなきゃ死なない……。
「ふぅーっ、ふぅーっ」
ゆっくり呼吸をし、膝が笑わなくなった頃、ソローっと外に出る。
「……いないよな……?」
辺りをしっかり確認してから、俺は外に出た。
「はぁ……流石にずっとあそこにいるのはダメだな……そろそろ探索の続きをしよう……」
そうして俺は先程いた洞穴から視線を逸らし、人型が向かった方向の真反対へと歩き出したのであった。
◾️ ◾️ ◾️
どれくらい経っただろうか。
何日、何週間、もしかしたら何時間?
景色が変わらないここでは時間なんて分かるわけが無い。
「うう……」
マズイな……こんな所ずっといたら、精神がいかれる……!
早くユミル達を見つけ出して地上に戻らないと……!
『ギジュウブランベラベェェェェェエエエエエエ!』
クソ、またモンスターか! 隠れられそうな場所は……あの岩陰くらいしか無いか!
俺は出来る限り音を立てない様に走って隠れる。
『ギャルェェエエエ! ボウボウブェェェエエエエ!』
「ううう……!」
何て声だ……! 鼓膜が破けるかと思ったぞ……!
『グウウブェ……グジュペェ……』
な、何だ? 急に弱々しく……。
鳴き声がした方向を見てみる。
「――あっ!」
目の前には、先程まで鳴いていたであろうモンスターと、暗くてよく分からないが誰かが立っていた。
いや、誰か分かる。あの体のシルエットは……ユミルだ!
「ユミル!」
俺はすぐさまユミルの元へ駆け出す。
生きていた! ユミルがちゃんと生きていた! こんなクソッタレな場所でまた会えるなんて! いやまあ、俺は信じていたけどな!
「生きてたんだな……良かったよ……」
ユミルの手をギュッと握る。
…………冷たい。
「!」
危険を察知してすぐさま後ろに飛び退く。
『ア……ァ……』
ユミルの体がグネグネと動き、顔と上半身が二つに割れる。
そして……
『『『『『『ギシェシェシェシェシェ!』』』』』
まるで、蜘蛛の様なモンスター達が中から現れた。
ユミルのその上半身は、白い蜘蛛の糸だらけだった。
「……貴様らぁぁぁぁぁぁああああああ!」
本来であれば、逃げた方が良いだろう。
当たり前だ。この階層にとっての雑魚モンスター相手にまともに戦いないのが今の俺の戦力だ。
だが……ユミルをあんな風にしやがった奴らを、おめおめと逃がす訳にはいかない!
『『『『『ギシェエー♪』』』』』
俺が怒ってるのを見て笑っているのか、そんな声を出す
殺す。こいつらだけは、殺す。
「うおおおおおお!」
『『『『『ギシェー』』』』』
俺が剣を振りかぶった直後、とんでもない速度で杖を突かれ、それが俺の腹を貫通する。
「がはぁっ!」
『『『『『ギッシェ〜……』』』』』
俺の事を観察しまくったモンスター共はその後すぐにピョーンと飛んでどこかへ行ってしまった。
くそ……ユミル……。
「ぐううっ……」
腹の出血が止まらない……すげぇ痛いし……。
それに……ユミルが……ユミルが…………。
ユミルが……殺されてた……。
「うううっ」
激痛の中、吐き気がしたが、臓器が傷付けられていたせいで吐けなかった。
「ユミル……ユミルゥ……」
周囲から足音がする。
恐らく俺の血の臭いに釣られて来たんだろう。
……ああ……死ぬのか……ここで……ギリダスを見つける前に……アイツをボコボコにする前に……
……強くなる前に……。
「死にたくねぇ! 死にたくねぇよぉぉ!」
そんな悲痛な叫びも、モンスターの耳には届かない様で、ジリジリと距離を詰めてくる。
……クソ……。
『ガァァァァ!』
そうして俺は、モンスターに喰われた。
――筈だった。
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