闘技力祭 ①
「と、
「毎年我が国では、この国の最強を決める
「そ、それで何故私にその祭典に出場しないかというお誘いをされたのですか?」
「今の其方の戦いぶり、それを対人戦闘でやってみて欲しくなったのだ」
「!?」
つ、つまりそれって……俺に人を殺せと!?
「おっと、言い忘れていたが、闘技力祭には
「え!? そ、蘇生師が!?」
蘇生師とは、世界に数人しかいない蘇生魔法を扱える人達の事だ。
昔はこの蘇生師を保有しているかしていないかで国の情勢が変わりまくっていたらしい。
因みに、当時蘇生師を保有していた国が今の六大国だ。
「だから、其方が人を殺しても蘇生師が蘇生してくれるし、その祭典の最中は闘技場の舞台にて人を殺しても罪にはならぬ。まあ残虐な殺し方や相手が降参しているのに殺した場合など、道徳に欠けた殺しは罪になるがな」
流石一国の祭典なだけあってそういうのもちゃんとしてるな……。
「それでどうだ? 出場せぬか?」
ぶっちゃけ出場したくないけど……王様からの頼みだもんなぁ……。
「しゅ、出場いたします……」
「おおそうか! 其方の闘技力祭での活躍、楽しみにしているぞ」
「ありがとうございます」
「私はこれから野暮用があるのでな。また今度話そう」
「かしこまりました」
「ではな」
そう言ってウィーラーチ様は謁見の間から出ていった。
「……なんか、どっと疲れた」
「王様と話して、モウルマン五体を倒したんですから、当然ですよ」
「まあ、そうだね」
俺らはその後兵士さんに案内され、王宮から出た。
「さてと、出場するって言っちゃったし、早速出場手続きしに行こうか」
「そうですね!」
「はいっ!」
そして俺らは闘技力祭に出場する手続きをする事の出来る受付がある、闘技場へと向かった。
「結構並んでいますね……」
「俺らも並ぼう」
俺らは急いで列に並び、順番が来るのを待った。
そして、十五分くらいしてようやく順番が来た。
「こんにちは、出場手続きの方ですか?」
「はい、そうです」
「でしたら、この紙に書いてある項目に記入していってください」
「分かりました」
そして俺は受付の方から紙を貰って、そこに記入していった。
書く内容は非常にシンプルで、参加人数と名前、年齢、職業、そして使う武器だ。
「エリシア達も参加する?」
「私はルイド様の勇姿を見届けたいです」
「わ、私もです!」
「なら、俺の事だけ書くか」
項目に自分の事を書いていく。
「書けました」
「かしこまりました。えーと……ルイド様、ですね? ご職業は……しょ、召喚士、ですか?」
「え、はい」
何かダメなのかな?
「この闘技力祭は、【召喚】の使用回数が二回までと定められておりますが、大丈夫でしょうか?」
「え」
お、俺は全然大丈夫だけど、普通の召喚士だったら相当致命的じゃないのかそれ?
「な、何故使用回数が決まってるんですか?」
「数で押し切らないためです。この祭典はあくまで本人の力で戦って頂く祭典ですから」
「な、なるほど……」
それでも結構少なすぎる気がするけどな……。
「それで、出場いたしますのでしょうか?」
「あ、出場します」
「かしこまりました。明日、朝の九時にこの闘技場前に来て下さいませ」
「分かりました」
そうして俺らは宿に戻り、明日に控える闘技力祭の為に早めに寝たのであった。
◾️ ◾️ ◾️
「うおっと」
「きゃっ」
「あでっ!」
翌日、ちゃんと九時に闘技場に着くと、大量の人でごった返していた。
出場する人以外にも、観客が大勢いるのだ。
「凄い人の量だ……!」
「ル、ルイド様!」
「エリシア!」
エリシアが人の波に飲まれていく。
「あれ!? ラルムは!? ラルムはどこだ!?」
人が多すぎてラルムの位置が分からない!
「ルイド様……! こ、ここです……!」
「あ!」
ラルムは地面に突っ伏しており、色んな人に踏まれてしまっていた。
「大丈夫か!?」
「はい……何とか……」
くそ……エリシアはどこだ……!?
「出場者の皆様ぁー! 入場口はこちらになりまぁーす! どうかお並び下さぁーい!」
そう受付の方の一人が言うと、一部の人の流れが変わって俺らはそれに流されていく。
「ラルム! 君はあっちだ!」
「わ、分かっていますけれど〜!」
人の流れが強すぎて思うように動けない。
(こうなったら……!)
俺は姿勢を低くし、ラルムをお姫様抱っこする。
「え、えぇ!?」
そして脚に力を込め、上に飛んだ。
「えぇ〜!?」
大体3m程飛び上がり、観客の人達の元へ着地する。
「うわっ!? 何だ!?」
「空から人が!?」
「彼凄い高さを飛んでなかった……?」
そんな声が辺りから聞こえる中、俺はラルムをその場に降ろす。
「大丈夫だったかラルム?」
「は、はい……」
「ん? なんか頰が赤いぞ? やっぱりなんかあっただろ」
「な、何もありません! そんな事よりルイド様! 早く出場者の方に!」
「あ、ああそうだな! 俺は行くよ、取り敢えず、体調が悪くなったなら宿に帰ってて良いからな!」
そう言って宿の鍵を渡して俺は出場者の方にまた飛んで帰った。
(エリシアは……多分方向的にちゃんと観客の方へ行けただろう……)
出来れば今すぐ探しに行きたいが、そんな事をしていたら出場出来なくなってしまうかもしれないので、泣く泣く俺は出場者達の波に入った。
そして何とか闘技場の中に入り、待機室へと入る事が出来た。
「ふぅ、ここまで入れれば大丈夫そうだな……」
待機室、と言ってもかなり広く、現に沢山いる出場者達全員を入れる事が出来ている。
待機室の窓からは闘技場の舞台を見る事が出来る様になっていた。
そして、中には数え切れないほどの椅子が設置されているので、一人一人ちゃんと座れるだろう。
まあ……
「ふぅー……おい、そこどけや」
「え、で、でも……」
「おいおい、このダグラス様とやり合おうってかぁ? 良い度胸してんなぁ?」
「ひぃっ! い、今どきます……!」
「チッ、最初からそうしろよこのボンクラが」
「……」
あんな感じで、他人の席を取って座る人がいなければだが。
「出場者の皆様! こちらが対戦表になります!」
受付の方が壁に大きな対戦表を貼る。
俺の対戦相手は……ダグラス・ボチュードさん……何だろう、今さっき聞いたばかりの名前だな……。
……いやいや、まだ同名の可能性がある。
俺は合ってて欲しく無いと思いながら彼を見る。
「ルイド・アッカーサー? 聞いた事もねぇ名前だなぁ」
……間違い、俺の初戦の対戦相手は彼だ。
「……」
いやまあ、決まってしまったものは仕方ないけど、それでも嫌だなぁー……。
「ねえねえお嬢さん、この闘技力祭が終わったら俺とお茶しない?」
「申し訳ございませんが、この後予定がありまして……」
うわーこんな時にナンパしてるよ。
凄いなぁー、俺には出来ない。
というか出来てもしない。
「良いじゃん? その予定よりも俺、きっと楽しませられるぜぇ……?」
そう言ってナンパしている彼は受付の人を下心満載な目で見る。
「誠に申し訳ありませんが、本当に外せない用事でして……」
「あ゛ぁ〜! ったく、
か、完全な逆ギレだ……!
それに言ってる事まで最低だ……!
俺が止めに入ろうとしたその時、
「君」
悪質ナンパ男の肩を一人の女性が掴んだ。
ピンク色の美しい髪で、黒が主張されている装備を着ている。
因みに髪型はストレートだ。
「あ? 何だよお前? 俺は今この女に常識を教えようと――」
「やめないか、こんな一目に付くとこで」
「!」
ナンパ男は辺りを見回し、自分が相当注目されている事に気が付いた。
「ちぃっ!」
そして彼は受付の方の腕を乱暴に放ると、近くの席へと移動して荒っぽく座った。
「え、えーと……」
「アリスだ。アリス・ローヴェルチ」
「アリスさん、助けて頂きありがとうございました」
「気にするな。当たり前の事をしただけだ」
「それでは皆様、試合が始まるまで各自ご準備下さいませ。そしてアリスさん、本当にありがとうございました」
そう言って受付の方は待機室から出て行った。
アリスさん……か。なんか凄い強そうだし、彼女とはあまり戦いたくないなぁ……。
「それではこれより、第三百六十七回、闘技力祭を開催いたします!」
舞台の方からそんな声が聞こえ、見てみると中央に司会の人が立っていた。
そして観客達はワーッと歓声を上げている。
「ルールをご説明します! 出場者はこの舞台から出たら失格! そしてもちろん、殺されれば失格となります! なお、殺されても蘇生師の方が蘇生して下さいますので、出場者の皆様は安心して殺されて下さい!」
そう言うと観客の人達からドッと笑いが出た。
いやいや、笑えないって……。
「そしてなんと今回! この国の王様であられるウィーラーチ・ヴァ・アーストリアム様がご覧になられります!」
司会の人が手を差す方向を見ると、ウィーラーチ様が観客に手を振っていた。
「それでは皆様! 闘技力祭をお楽しみ下さい!」
そしてもう一度歓声が響き渡り、司会の人は舞台から立ち去った。
「クイレ・グイートさん! ビローン・ボルトさん! 第一回戦が始まりますので、準備して下さーい!」
いつの間にか入って来ていた受付の人が出場者全員に聞こえる様に大声でそう言った。
「うーし、やってやるぜ!」
「はっ、お前なんざボコボコにしてやる!」
名前を呼ばれた二人がそう言い合いながら待機室から出て行った。
あっ、そう言えば俺が何回戦目にやるのか知らなかった。
対戦表の自分の名前が書いてある場所から一番上まで数えていく。
(じゅ、十五回戦目……)
早いと思うべきなのか、遅いと思うべきなのか何ともコメントしにくい順番だ。
いや、こんだけ人がいるんだ、結構早い方だろう。
まあ、それでも十四回分の他人の戦闘を観れるのだから、ラッキーだと思おう。
「さてと、どんなもんなのかなぁー?」
そうして俺は、来たる十五回戦目に少し心臓をバクバクさせながら、第一回戦目を見るのであった――。
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