ギルドマスターの悩み

― 十五分前 ―


「うぅむむむ……」


 と、ピロはギルドマスター室にてそううなっていた。


「どうしたんだ?」

「いやな、聞いてくれガラス。この間来たルイドっちゅう奴らの事、覚えておるか?」

「もちろんだ、あんなに褒めてたからなぁ。あいつらがどうかしたのか?」

「うむ、あやつら、どうやらモウルマンを複数体倒したらしいんじゃ」

「……そりゃあ、あの三人なら余裕だろ」

「いや、聞いた話によるとな、一人だけ、ルイドだけでやったらしいんじゃよ」

「マ、マジか!?」

「マジじゃ」

「だって……あいつらの動き、だろ?」

「そうじゃ、目で追えないほどの速さなんじゃ、だからあやつらは一人に集中しているところに攻撃するのが定石なはずなんじゃよ。それだというのに、一人で大量に狩ってしまうとは……」

「で、その件で何で悩んでるんだ?」

「……その事を六王が一人、ウィーラーチ・ヴァ・アーストリアムが聞いて来ておるのじゃ」

「六王が!? そ、それにその名前……知識王じゃないか!?」

「そうじゃ! だから儂は疑問なんじゃ! この世の知識はあらかた知り尽くしているが、ルイド達の事を知りたがるのか!」

「そのウィ……ウィラ……えーと……何だったか……?」

「ウィーラーチじゃ!」

「そう! そいつですら知らない様な事が、あいつらにはあるんじゃないか?」

「ふむ……そういうもんかのぉぅ……?」


 ピロは窓のそばに立って景色を見始めた。


「ガラスよ」

「何だ?」

「ルイド達は、ぶっちゃけるとS級冒険者相当の実力があると儂は踏んでいる」

「そりゃ凄ぇなぁ、今まで誰も推薦して来なかったってのに……」

「ふっ、儂のお眼鏡に適う奴らがおらんかっただけじゃよ。それでな、そのルイド達をあやつが一目見てみたい、というのはまだ分かるんじゃよ」

「ほうほう」

「じゃがな、儂に宛てられた手紙には、『複数体のモウルマンを一人で葬り去った者の事を知りたい』と書かれていたんじゃ」

「……それマジかよ?」

「手紙ならそこにあるわい」


 ピロがそう言って指差した手紙を、ガラスは読み始める。


「……確かにマジだな。しかもこのマーク……本物の王からの手紙の印だな……」

「そうじゃ、そのマークは六王にしか押せん。じゃからそれが偽物という事はあり得ないんじゃ」

「ははは、それでも信じらんねぇなぁ」

「取り敢えず、ルイドにはこの事を伝えないとじゃな」

「そうだな、伝えなかったら首から上が無くなっちまうよ」

「じゃな。それじゃあ……」

「お、出掛けるのか?」

「いや、その予定じゃが、まだじゃ」

「何するんだよ?」

「もう少しお主と話したい事があるのじゃ」

「お! 何だ?」

「ルイドと共にいたというルドー達についてじゃ」

「おぉルドーか! え? ルイド達と一緒にいたのか!?」

「おったらしいんじゃよ。それにな、ルイドがあやつらの命を救ったらしいんじゃ」

「おいおいマジかよ! あいつらがピンチになる事自体少ないのに、それを解決しちまうなんて……あ、まさかそれが……」

「ほぅ? お主にしては勘が鋭いではないか。そうじゃ、それがあの複数体モウルマン討伐の事なのじゃ」

「お、おう、やっぱりそうだったのか」


 ガラスはそれが決めてでルドーのパーティーの女性がルイドに惚れたと言うのをやめた。


「それでの、あやつらが冒険者ギルドでこうルイドに言ったらしいんじゃ」

「何だ?」

「俺ら的には貴方達の方が強いですから、とな」

「おぉー、あいつらも認めたのか」

「そうじゃ、やはり、儂の目に狂いはなかったという訳じゃ」

「まあそうだな」

「さて、と、そろそろ儂は行くとするわい」

「ルイド達の所へか?」

「そうじゃ」

「分かった、開けてやるから待ってろ」


 ガラスが扉を開けたのを確認すると、ピロは丸くなり、その場で数回バウンドしてから部屋を出て行った。


「全く……ピロさんとルドー達に認められるだけじゃあなく、六王の知識王に目を付けられるたぁなぁ……」


 そう言ってガラスは今日も驚きつつピロを避ける通行人と、それを我関われかんせずといった様子でコロコロと転がり続けるピロを見つめたのであった。


――――――――――――――――――――

【補足】六王について


 王という身分なだけあって、六王はそれぞれの分野で卓逸たくいつした才能を花開かせており、一人は剣術に、一人は魔術に、一人は弓術きゅうじゅつに、一人は知識に、一人はスキルに、そして最後の一人は、未だによく分かっていない。

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