第13話


 イノセントの一体は空中へと飛翔しながら、地上に向けて右腕を後方へと捻る。


 手のひらには黒いエネルギー体がボール状に膨れ上がっていた。


 回転し、密度を凝縮させていく。


 並行するように、もう一体のイノセントも後方に向かって左腕を伸ばしていた。


 融解する細胞。


 密接に絡み合っていく粒子。


 自らの「細胞」を外へと拡張し、自身の体を変形させていく。



 引き伸ばされていく分子と、——実線。



 イノセントは、細胞間に於ける物質の互換性が常に“裸”の状態にあると言える。


 物質としての境界がなく、また、その領域を制限する「幅」もない。


 そのため、彼らの取り扱うエネルギーの流域は、ある特定の「ガイダンス」を持たない。


 細胞外マトリックス。


 端的に言えば、彼らにとっての「細胞間ネットワーク」は、彼らの肉体を構成する体表の内側に属しているわけではなく、空間の内側に“連続している“。


 彼らが展開した量子エネルギーは、ある種歪な形状をしていた。


 影に似た濃い靄が立体空間上に表出し、質量を帯びる。


 その表面上は黒く、電流のようなスパークが周囲に飛び交っていた。


 空間を歪めるほどの、激しい奔流が。

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