第3話 髪の逮捕状
【前話までのあらすじ】
ブレンの街にて報酬の食事にありついたライス。しかし、食堂でライスをクビにしたパーティに出くわしてしまう。パーティの連中はライスを馬鹿にして笑いものにする。ロスは止めようとするが騒ぎは大きくなるばかり。しかし、たまたま食事をしていた殺し屋『氷のアシリア』が一喝すると騒ぎは収まった。
◇◇◇
【本編】
ダァスは自分の席に戻り、さっきまでいきり散らしていた人物とは思えないほど、大人しくなっていた。
ロスとライスのテーブルにはたくさんの料理が次々と運ばれてきた。
「うわぁ、おいしそう! そうだ!」
ライスは料理を食べ始める前に立ち上がって、2つ先のアシリアに声をかけた。
「ねぇ、アシリア! こっちに来ない? 一緒に食べようよ! ねぇ?」
その誘いにアシリアは窓の外に目を向けたまま黙っていた。
「聞こえないのかな?」
「おいおい、ライス。俺が奢るのは君だけだぞ」
ロスはアシリアに気を使いライスの誘いを止めた。
「え~..」
「『え~』じゃない。さっさと食べるぞ」
「うん」
物怖じしない性格はいいことだが、時にはそれがトラブルになったこともあるだろう。
だが、それでも反省しないライスは愛すべき天然なのだ。
それに、おいしそうに食べるライスの笑顔にロスは不思議と惹かれるものがあった。
その時、店のドアが勢いよく開いた。
次から次へとドカドカと靴音を鳴らしながら、衛兵が入って来た。
さすがに殺し屋であるアシリアは、窓から逃げたようだ。
だが、衛兵はアシリアではなくロスとライスを取り囲んだ。
「お前は、ライス・レイシャで間違いないな。貴様に殺人未遂の容疑がかかっている。ハーゲル中央裁定所から逮捕状がでている」
「ふぇ、なんれすか?」
「食べるのをやめろ!」
衛兵がテーブルを蹴とばすと、大きな音を立てて料理が床に散乱した。
「ちょっと! いくら役人だからって料理を粗末にする人は許せない!」
怒り心頭のライスとにらみ合う衛兵。
「すいません。ちょっとその逮捕状を見せてもらえますか?」
「なんだ! 貴様は? この者の仲間か?」
「いいえ、私は今日、この子に護衛をしてもらった客です」
「関係ないものは黙っていろ! 一緒に逮捕されたいか?」
「しかし罪状が罪状です。逮捕状が正式なものかを確認させてもらわなければ..」
「いいわよ! 逮捕状なら見せてあげるわ」
ひとりの少女が衛兵をかき分けて前に出て来た。
「あっ、リジ!」
「やぁ、ライス・レイシャ。よくも平気な顔して街にやって来れたものね! 見て頂戴! あなたのおかげで私の自慢の髪の毛が50㎝もチリヂリになってしまったのよ。ほらっ!」
彼女の長く美しい金色の髪が確かにチリヂリになっていた。
「ご、ごめんなさい」
自分の魔法のせいで焼けてしまった髪の毛を前にして、ライスはシュンとしてしまった。
「この髪の毛があなたの逮捕状よ! さぁ、あなた達、この犯罪者を早く捕まえなさい!」
「はっ、お嬢様」
リジは衛兵たちを顎で使いまわしていた。
「ちょ、待ってください、リジさん。あなたの美しい髪を燃やしてしまったライスが悪いのは間違いない。しかしそれで殺人未遂は乱暴すぎる」
「あなた誰よ?」
腕組みしたリジは蔑むような眼でロスを見た。
「私はロス・ルーラという者です」
「ロス? ロス..ああっ、果樹園の? 私、あなたの作った果物のファンですのよ。本当に..あっ、ゴホン」
果樹園のロスとわかったとたん、リジはコロッと17歳の少女の顔になって頬を赤らめていた。
「お嬢様に逆らうとは、お前も逮捕するぞ!」
「馬鹿っ! ロスを逮捕したらおいしいスイーツが食べられないでしょ!!」
「す、すいません」
衛兵を一喝できるとは、やはりリジはかなりの家柄の娘のようだった。
「ロスさん、あなたには悪いけど、この逮捕に異議があるのなら、ハーゲル中央裁定所へ異議を申し立てることね。私はあなたの逮捕を望まない。だからしばらく黙っていてちょうだい」
ライスが衛兵に後ろ手に縛られると不安な顔をロスに向けた。
「ライス、大丈夫だ。俺がなんとかするから、大人しく待っていろ」
「ロスさん..」
ライスは衛兵に連れられると馬車に乗せられた。
「へっ、ざまぁみろ」
ダァスが小声で言ったのをロスは聞き逃さなかった。
「おいっ、お前! リジというあの女は何者だ?」
ダァスに荒々しく質問するロスはさっきまでのお人好しの男とは別人のような凄味を感じさせた。
それはダァスなどとは格が違う最上級の冒険者がもつ凄みだ。ダァスはその迫力に気圧され、またちょっぴりもらしてしまった。
・・・・・・・
・・
「なるほど。現領主ワイズ・コーグレンの孫か.. こりゃ、少し面倒だな」
しかしライスをこのままにしておくわけにもいかない。
コーグレン家への罪は決して軽くはない。下手をしたら斬首刑になるかもしれない。
「なぁ、アシリア、気になるなら君も手伝ってくれないかぁ?」
外に出たロスは食堂横にある見事なほど枝葉を伸ばす大木に向かって声をかける。
「私には関係ない。ことの成り行きを見ていただけよ」
「そっか..まぁ、取り敢えず俺は中央ハーゲルの街へ行こうと思っているよ」
屋根から返事は帰って来なかった。
ただ一枚の葉っぱがロス・ルーラの頭の上に舞い降りた。
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