第11章 最後のパズルとルール

第47話 南側の未開地帯

 目を開けるとロクヨちゃんの姿があった。ナクユでの待ち合わせは、視覚系と一緒に行くため目立たない場所の推理パズル国近くの中立地帯にした。

「まずは合流よね。綾音ちゃんと視覚系を探しに行くね」


「視覚系は見つかったにゃ。視覚系は言葉を理解できるにゃ。でも喋れないにゃ」

 ロクヨちゃんが指さす方向に顔を向けると、3階建ての高さがありそうな木のぬいぐるみがいた。横には自動車ほどの大きさがある雲のぬいぐるみもいる。


「話せないなら名前がわからないね。木のぬいぐるみは松に似ているから、名前は松の木さんかな。雲のぬいぐるみは綿飴みたいだから、名前はわた雲さんね」

 松の木さんは花を咲かせて、わた雲さんは大きく膨らんだ。態度で意思を示してくれたみたいだけれど、どのような意味か分からない。


「喜んでいるにゃ。私もぴったりの名前と思うにゃ」

 ロクヨちゃんが態度を補足してくれた。

 事前に調べてくれていたみたいで、松の木さんはイエスで花が咲いてノーで葉っぱが落ちる。わた雲さんはイエスで大きく膨らんでノーで細かく散らばる。名前の態度はイエスで気に入ってもらえた。指示された内容の実行も可能みたい。


 姿に見慣れると何のパズルか予想がついた。松の木さんは根本付近で2本にわかれていて、左右の木が少し異なるから間違い探しみたい。わた雲さんは透けている部分が道に見えるから迷路と思う。


「両方とも大きいよね。人を乗せられるかな。乗れれば移動が楽になるよね」

「触れるから乗れるかも知れないにゃ。普通に話せば態度で示してくれるにゃ」

「何ができるか確認したいけれど、最初は綾音ちゃんを見つけないとね」


 出現場所は見晴らしのよい草原で、移動を始める。数分間歩いていると、風に運ばれて遠くから声が聞こえてきた。綾音ちゃんの声だった。

「みーなさん、聞こえますか」

 目を凝らすと、手を振っている綾音ちゃんが見えた。


「お待たせ。よく探せたね。予定よりも早く合流できたかな」

「みーなさんなら何処にいても探せます。でも本当は大きな木で気づきました」

 松の木さんは遠くからでも目立つ存在だから、目印になったみたい。


 全員が揃った。南側の未開地帯へ行く前に、視覚系へ乗れるか試したかった。結果は松の木さんとわた雲さんに乗れたけれど制約もあった。

「松の木さんは震動がひどいから乗るには辛そうね。止まっている状態で遠くを眺めるのに有効かな」


 私なら無理すれば乗れそうだけれど、運動が苦手な綾音ちゃんには辛いと思う。

「わた雲さんは宙に浮いて気持ちよかったです。広くて問題なく乗れました。ただ3分程度で雲が薄くなって下に落ちてしまいます」


 綾音ちゃんがわた雲さんを調べてくれた。使いわけが必要みたいで乗る以外にも何ができるか試した。松の木さんとわた雲さんの確認が終わる。準備が整ったので、見えない翼の指輪を取り出す。

「キリリキくんを助けに行くよ。南側の未開地帯へ向かうね」

 ムサシ国王に教わった呪文を唱えると周囲の景色が揺れた。移動が始まった。


 南側の未開地帯も灰色の世界で、険しい山がいくつも連なっていた。

「ロクヨちゃん、数えの塔がある方向はわかるかな」

「平らな頂上の山が遠くに見えるにゃ。その山の方角にあるにゃ」


「目印になりそうね。危険があるかも知れないから慎重に行きましょう」

 今はせっかちなキリリキくんがいないのが、やっぱり寂しかった。

 南側の未開地帯は明確な道がないので、目標の山を目指して歩き出す。途中から上り道へと変わって、気温は北側の未開地帯と同じだった。


 歩き出すと最初の考えが甘いとわかって険しい山道に変化する。両手を岩にかけて登る場面も増えて、天候の崩れがないのが救いになった。私は体力的にも平気だったけれど、綾音ちゃんが辛いのは一目瞭然だった。


「見渡しのよい場所ね。少し休憩しましょう」

 綾音ちゃんは話す力もなさそうで、無言で頷いた。周囲に木々はなくて、大きく平らな岩の上に腰を下ろす。となりに座った綾音ちゃんは息が荒くて、見てわかるほどに汗をかいている。


 視線を遠くに向けると、目標とする平らな頂上の山が見えた。途中には大小さまざまな山があって、その何処かに数えの塔がある。空を見上げると、色合いは灰色のままで味気なかった。


「休憩して元気が出ましたので、わたしは平気です」

 綾音ちゃんが立ち上がって柔軟体操を始める。移動する準備ができたみたい。私も腰を上げて背伸びした。

「先に進むよ。疲れたらいつでも言ってね」

 大きく平らな岩から降りて、綾音ちゃんも続いて降りた。


「大変にゃ。空に紫色のらせん状が現れたにゃ」

 ロクヨちゃんの切羽詰まった声だった。遠くの空には見覚えのある姿があった。

「ここにも出現するのね。私たちを捕らえるつもりね。でも想定範囲内よ」

 予想通りに紫色のらせん状中央から、赤色と青色の鎖が飛び出した。


 綾音ちゃんの手を取って隠れそうな場所を探す。近くにはなかったので、鎖から逃げるために走り出した。横にロクヨちゃんが並んで、後ろからは松の木さんとわた雲さんが着いてくる。


 道は走りにくくて全力で走れない。鎖の姿が大きくなって、綾音ちゃんの速度に合わせると捕まるのは時間の問題だった。周囲を見たけれど隠れる場所はないので、考えていた作戦を実行した。


「松の木さん、お願いよ。鎖から私たちを守ってね」

 複数の花を咲かせた。松の木さんが止まって枝を長く伸ばす。私たちと鎖の間に壁ができた。以前に視覚系は鎖から私を助けてくれたので、松の木さんなら鎖を止めてくれると考えた。


「今のうちに遠くへ逃げるね。ロクヨちゃんは先頭をお願い」

「全力で走るにゃ。遅れずに着いてくるにゃ」

 松の木さんが心配だったけれど、今の状況では最善の選択だった。松の木さんは木の枝を鎖に絡めて引きちぎって、鎖の侵入を防いでいる。鎖は地面に落ちるけれど新たな鎖が現れて、木の枝が鎖を絡める。その繰り返しが何度も続いていた。


 前方にはロクヨちゃんと綾音ちゃんが走っていて、後方を確認すると松の木さんから逃れた鎖が勢いよく向かってくる。でも私たちには到達しなかった。木の枝が鎖の動きを止めてくれた。


 前方に視線を戻して、逃げるのに専念する。どの道を走ったのか覚えていないけれど、目印の山だけを目指して走った。無我夢中で鎖から逃げて、両手を使わないと登れない山道になると足を止めた。綾音ちゃんは倒れ込むように横へ座った。

 来た方角の空を見上げると、紫色のらせん状は見えなかった。松の木さんが退治してくれたと思うけれど、遠すぎて確認できない。松の木さんが無事でいてほしい。


「松の木さんと話せないかな。状況を知りたい」

「直接の言葉でしか話せないにゃ。今の状態はわからないにゃ」

「松の木さんの活躍を無駄にしたくない。休憩したら先に進むね」

 綾音ちゃんの息が整うのを待って、歩ける状態になると出発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る