第28話 藤崎愛純は大親友と昔話をする

「はー疲れたぁ」


 時刻は正午頃、大学方面へと歩いた私と牡丹は大学近くの駅に到着した。


「結構歩いたねぇ」


「いつも電車を使っていますから感じませんでしたけど、結構距離ありますね」


「でも、これで結構カロリー消費したんじゃないかな?」


 そう言いながら私はお腹を摩る。


「油断は禁物ですよ。これからさらにケーキを食べるんですから」


「うっ、それは言わないで」


「しばらくは運動しましょう。それこそ、今日ケーキ屋に行った後バッティングセンターとか行きますか?」


「お、珍しく牡丹にしては珍しいこと提案してる」


 普段はない牡丹の誘いを少し珍しく思う。ギャルのような見た目のボタンだが、その実、言葉遣いは丁寧で性格も穏やか、持ち物はあまり派手なものは好まず私生活もパティシエの修行以外はおとなしい女の子という感じだ。


「私だってそういうところに友達と行くことに憧れはありますよ」


「そうなの?」


「ええ、私だって大学生ですから」


 私の疑問の言葉を聞き、牡丹はそう答える。


「昔からの憧れだったんです。お友達と一緒に下校して、寄り道したり買い食いしたりして、休日は遊びに行ったり家にお邪魔したり。いわゆる青春ですね。私はそれに憧れていたんです」


「そうだったんだ……今までごめんね、あんまり付き合ってあげられなくて」


 今まで私は大学やケーキの試食で牡丹と一緒にいることはあったが、遊びに行くことはあまりなかった。あったとしても私の様子を見かねた牡丹が色々と引っ張って行ってくれた時くらいだ。大学では牡丹は私以外にはあまり付き合いがあるようには見えなかったし、これまで色々と我慢させてしまっていたのかもしれない。


「いえ、大丈夫ですよ。私は愛純さんと一緒にいられて楽しいです!それに、憧れていたって言ったじゃないですか。」


 そう言った牡丹は語り始める。

 

「私、高校生の時はこの髪黒く染めていたんです。私の高校校則が厳しくてみんな黒髪か茶髪で、他人と違うのがなんだか疎外感を感じて。でも、大学生なら染めてる人もいっぱいいるし馴染めるかもって思って染めるのをやめてみたんです。実際、私に話かけてくれる人はたくさんいました。でも、私自身そういうのに向いていない性格で、一緒にいても合わせるのに必死で全然楽しくなくって。そんな時愛純さんが話しかけてくれたんです」


「私?」


 牡丹の話の中、急に私の名前が呼ばれる。


「ええ、みなさんと馴染めずなんだか疲れてしまって、一人で昼食をとっていた時に愛純さんに言われたんです。『なんであいつらと付き合ってるの?辛いなら辞めればいいのに』と。それで私、どうして今まで友達が欲しかったのか思い出せたんです」


「あー、そんなこともあったようななかったような……」


 確かにそういうことを言った記憶はある。でもあの時は自分のかなり落ち込んでいて、そんな時陽キャ集団とつるんでいるくせに一人でつまらなそうにしているのが目について、八つ当たり的に言ってしまったのだ。決して牡丹を励ましたり救ったりするような発言ではなかった。


「あのー、牡丹。それは、その――」


「大丈夫です。愛純さんがそういう意図で発言をしたわけではないことはわかっています」


 私が牡丹に本当のことを言うべきか迷っていると、それを察した牡丹が先んじて私が言いたかったことを言う。


「それでも、あの時私は愛純さんの言葉に救われたんです。だから、憧れが叶うよりも愛純さんと仲良くなれたことの方が私は嬉しいです!」


「牡丹……ありがとう、あの時の私と仲良くしてくれて」


「いえいえ、私がしたくてしたことですから」


 私がお礼を言うと、牡丹は自分のしたいことをしただけだと言ってくる。思えばいつの間にか隣にいたせいか牡丹が一緒にいてくれたことに感謝を告げた覚えがない。


「それなら私も、私が言いたくて言ってるんだから素直に受け取ってね」


「もう、わかりました。受け取ることにします」


「よろしい」


「ふふっ、全く、何様なんですか?」


「あなたの大親友かな?」


「大親友ですか、それは嬉しいですね」


 ノリでそんなことを言ってみると、牡丹もそれに乗ってくれる。今までここまで深く関わった友達もいなかったので、大親友というのもあながち間違っていないだろう。


「そんな大親友さんには今日は最後まで付き合ってもらいます。憧れよりも愛純さんにの方が優先だとしても、憧れがないわけではないですからね。今日で両方叶えてしまいましょう!」


「よし!今日はいっぱい遊ぼう!」


 そう意気込み私たちはケーキ屋への道を歩き出す。楽しもうとは言ったけれど、今日の一番の目的はケーキの研究。遊ぶのはそれを済ませてからだ。そんなことを考えながら歩いていると、視界に何か気になる影が映る。


「ん?」


「どうかしましたか?」


「いや、なんか見たことあるような影が……」


 あたりを見回してもう一度その影を探すも見つからない。


「ごめん、多分ただの気のせい」


「そうですか?ならいいのですが」


 ただの気のせいだと思った私は、再びケーキ屋へ向かって足を進め始めた。


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