第9話 ねぼすけ姉はできる妹に起こされる

 私、藤咲愛純は筋金入りのシスコンだ。


 日常生活も、部活も、なるべく真恋と一緒に居られるように調整した。いつからそうだったかは分からない、気がついた頃には真恋中心の生活になっていた。


 あの頃、真恋は友達と遊ぶよりも家の中で遊ぶのが好きな子だった。そのせいかあまり友達ができず、いじめに遭うこともあった。そのたび私は真恋を守り、慰めていた。そんな私に、真恋も懐いてくれていた。


 あの頃の真恋は内向的でおとなしい性格だった。少なくとも私が家を出るまではそうだったと記憶している。だけど、今の真恋は――


 ♡ ♡ ♡

 

「――――ん」


 朝の冷たい空気が私の肌を刺す。


「――ちゃん、朝だよ」


 私は冷気から逃れようと掛け布団を引き寄せる。


「ほら起きて、今日はショッピングに行くんでしょ?」


 しかし、夏から使いっぱなしな薄いそれでは冷気を遮断することはできない。私はさらなる熱源を求める私に、毛布のような感触の何かが触れ、私は咄嗟にそれを引き寄せる。


「わひゃっ、お姉ちゃん!?」


 引き寄せたそれは、自ら熱を発しているかのように私を温めてくれる。心地よいその熱に私は体を絡め、より熱を感じようとする。


「もう、仕方がないなお姉ちゃんは♡」


 私が体を絡ませるとその毛布は私を包み込んでくる。まるで、意思があるかのように――


「んえ?」


「あ、お姉ちゃん起きた?」


「……真恋?」


 私が目を開けると、真恋の顔が目の前にあった。それこそ少しでも前へ動けばキスしてしまうだろう。真恋は左手で私の体を抱き、右手で頭を撫でている。私はそんな真恋の体に両手、そして両足を絡め――


「うわぁ!!」


「おはようお姉ちゃん。目、覚めた?」


 自らの状況を察した後、私は勢いよく後ろへ飛び退く。真恋は、そんな私を見て微笑みながらそう挨拶をしてきた。


「ご、ごめん真恋」


「別に私はいいけど、あったかかったし。お姉ちゃんは嫌だった?」


「い、嫌じゃないけど……」


「ならいいじゃん、私たち姉妹だし」


「でも……」

 

 いくら姉妹とはいえこれはダメだろう。添い寝ならいざ知らず、体を絡めあうなんて。倫理的にアウトだ。


「ふふっ、お姉ちゃん!」


「うわっ!真恋?」


 ウジウジしている私に真恋が抱きついてくる。私は驚きながらもそれを受け止める。


「あったかいねぇ」


「……そうだね」


 こうして抱かれていると、なんだかどうでも良くなってくる。いけないこととはわかっている。でも今はこの心地よい温もりに甘えていたい。微睡まどろみの中に沈んでいたい。意識が遠退き、現実から離れていく。このまま眠りについて――


「よし!そろそろ起きよう、お姉ちゃん!」


「あっ……うん、そうだね」


 完全に意識を手放しそうになる直前、真恋が起き上がりそれを食い止める。私は名残惜しく感じながらも彼女の意見に同意する。


「お姉ちゃん、朝ごはん作ったんだ!食べてほしいな」


「っ!もちろん!」


 真恋の朝食という言葉に完全に目が覚める。飛び降りるようにベットから降りると、いつもの朝の二倍の速度でリビングへ出る。


「……あれ?部屋が片付いてる」


 私がリビングへ入ると、明らかに昨日とは違う景色が広がっていた。テーブルの上は綺麗に片付いている。長らく見えなかったフローリングが姿を現し、棚の隙間に溜まっていたは綺麗さっぱりと消えていた。


「朝のうちに掃除しておいたんだ」


「えっ?朝ってまだ9時だよ?」


 今まで三年間の積み重ねによって作られた汚部屋だ。2、3時間程度で片付くとは思えないのだが……


「私も三年間で家事レベルが上がったからね」


「もう私以上だよ」


「お姉ちゃんには敵わないよぉ」


 私も一人暮らしをしてかしばらくは家事を頑張っていたが、流石にあれを数時間で片付けることはできない。真恋の家事レベルが異次元なのは明らかだ。


「というか、昨日私ってどう寝たんだっけ?」


「お姉ちゃん酔ってたから、私がお姫様抱っこでベットまで運んで――」


「うわああああああ!」


「お姉ちゃん!?」


 やってしまった。羞恥心を隠そうとワインを飲んでのがさらなる恥に繋がってしまうとは。それに、今お姫様抱っことか聞こえてきたし……


「ごめんね真恋、そんな情けない姿晒してグースカ寝てる間に家の掃除なんてさせちゃって」


「別にいいよ、私がやりたくてやったんだし……ボソッ(それにいいもの見つけたし♡)」


 真恋はそう言ってくれたが、私の気は収まらなかった。なんらかの形でお返ししたいのだが……

 そう考えながら片付いた部屋を見回していると、ソファに目が留まる。確か昨日、夕方に起きた後そのままだった気が――


「ま、真恋!」


「ん?何お姉ちゃん」


「ソ、ソファって掃除した?」


「え?うんまあ掃除機と消臭スプレーかけたけど」


「その、匂いとかって、嗅いだりした?」


「……ううん、別に嗅いでないよ?」


 ドキドキしながら私がそう聞くと、真恋は匂いを嗅いでないと言った。その言葉を聞きホッとしたのも束の間、真恋はさらなる爆弾を口にする。


「そうだお姉ちゃん。朝食温め直してる間にお風呂入ってきたら?」


「へ?」


「昨日、入らないまま寝ちゃったでしょ?」


 その言葉を聞き、私はもう2つ、重大なことを思い出す。昨日、寝汗でびしょびしょになった私はTシャツを変えはしたがお風呂には入らなかったこと。そして先ほどまで真恋と至近距離で抱き合っていたことに。


「っ!シャ、シャワー浴びてくる!」


「ゆっくりでいいよ」


 私はもはや駆け足になりながら脱衣所へ飛び込むと、自分の匂いを嗅ぐ。汗臭い気もするが、長時間この状態で過ごしたせいか鼻が麻痺してどのくらい匂っているかがわからない。


「……臭くなかったかな」


 私が抱きついたせいで真恋に嫌な思いをさせてしまってはいないだろうか?せっかく仲直りしたのにまた元に戻ってしまうのではないだろうか?そんな悩みを抱え、私はしばらくの間脱衣所でしゃがみ込んでいた。

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