探偵は今日も現れない

星蔦 藍

Prologue

 探偵は依頼者の元に現れない。

 昨日も、今日も。明日、明後日、それからもっと先の未来も、きっと同じだ。別に死んだわけではない。ただ姿を見せないだけだ。その代わりに依頼はしっかりとこなす。……助手を伝書鳩か飛脚のように扱いながら。

 

 依頼者の元に現れないからと言って、安楽椅子探偵というわけでもなかった。むしろ気がついたときには、探偵事務所から姿を消している。じっとしているのが苦手な質なのだ。近くの商店街のおばちゃんたちと談笑していることもあれば、公園でホームレスの人たちと酒盛りをしていることもある。


 もちろんそんな自由奔放な上司に、助手は手を焼く。でもどうしようもなかった。対策出来ないほど、優秀過ぎた。


 それが探偵、犬丸泰河という人間である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る