第5話 お父さんのウソ

「あんた、誰。」


インターホンから聞こえる声。一瞬。ほんの一瞬だけ家を間違えただけかと思った。が、12年も住んでいた家を間違えるはずがない。


頭が徐々に真っ白になって固まっているとドアが開いた。中からはすごく薄着の知らない若い女性が出てきた。

「誰?何しに来たの。」

私は固まっていた口をなんとか動かし

「あ、あの......お父さんは...」

声が小さく聞こえにくかったのか少し怒った表情になっていた。


「なんて?」

「えっと......あ、あの、その......」

「はっきり言いなさいよ。」

「えっと...その...お、お父さんは......」


なんとか声を絞り出して答えた。今度は聞こえたようで

「お父さん?あぁ、もしかして"シンゴ"さんのの子?」

少し笑いながら言った。私が呆然としていると目の前の女の人は話を続けた。


「シンゴさん確かこの前言ってたわね。最近前の子がちょくちょく顔だして来てって。」


迷惑.........お父さんそんな風に思ってたんだ。


「あんた邪魔なのよ。離婚してもう赤の他人だってのにちょくちょく家来て。可愛い子なのかなって思ってたけどあんたブスじゃない。母親の顔見てみたいわw」

笑いながら言う女。

「てことでさ、帰ってくんない?」


あんなにも楽しそうに笑って話をしてくれていたあのお父さんは全部ウソで、本当は私のこと邪魔だって思ってて、来て欲しくなくて、他の女の人と住んでて...


「帰れよブス。」

「すいませんでした。」


消え入るような声で謝り、現実から目を背けるように振り返り、急いで帰った。さっきまで晴れていたのに急にバケツをひっくりかえしたような大雨が降り始めた。


洋服を汚すとまたお母さんに怒られる。

今までお父さんと離婚しても平然と生活するお母さんが嫌いだったけど理由がようやくわかった。アイツはクズだ。そしてそんなアイツと一緒にいるあの女も。私の体にアイツの血が入っていることが嫌だ。あんなクズの遺伝子が入っていて、数ヶ月前まで一緒に住んでいたと思うとどうしようもなく吐き気がした。




ずぶ濡れになって家に帰り、洋服を着替え、そのままベッドで泣いた。

              つづく

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