無能力者の俺が実力をつけた結果…

壱ノ神

第一話 才能の開花

 この世界は能力で溢れている。

 能力は生まれた瞬間に全ての人間の体に宿る。

 初めて能力者が生まれてから既に1000年以上が経過しているが能力を使って悪事を働く悪い人もいれば、そんな人を捕まえる善良な人もいる。

 これは、そんな世界に生まれた無能力者の少年の物語である。

第一話 才能の開花

 ドンッっと鈍い音が響いた。

 現在、俺こと神崎かんざきいちはいじめられていた。

 理由は、おそらく俺が無能力者だからだ。

 俺は今までで無能力者だということを隠すため、生まれつきの運動神経の良さで身体強化系の能力者だと偽り続けていた。だが、高校には運悪く能力を見る能力者が存在していて俺が無能力者だとバレてしまった。

「おい、落ちこぼれ!」

 いじめっ子達のリーダーが俺のことを呼んだ。

 俺は無能力者だから、こいつらから『落ちこぼれ』と呼ばれている。

 俺がそいつの顔を見るとそいつは

「今日までに金を用意しとけって言ったよな!」

と今の時代はもう聞かないだろう言葉を発した。

「・・・」

 俺が先程殴られた腹部を押さえながら黙ってそいつを睨むと

「チッ、調子のってんじゃねぇ。お前ら、殺れ!」

とそいつは額に血管を浮かばせながら言った。

 その声を聞いたいたいじめっ子達は、嫌な笑みを浮かべ俺のことを見た。次の瞬間炎や水、雷や氷の塊など様々な物が俺めがけて飛んできた。

 アニメや漫画ならドーンと鳴っているかもしれないが、実際は表現できない複雑な音が鳴り響いた。

 だが、威力はギリギリ怪我するかしないか程度だ。それが限界なのか、これ以上の威力を出すのはまずいと思ったのか無能力者の俺には分からない。

「いってぇ」

 俺はそう呟く。

 そんな俺の言葉を無視していじめっ子達のリーダーは

「月曜日までには必ず金を用意しろよ。」

 そう言ってこの場を去った。

 それから、1時間程の時間が経過して、学校が終わった俺は今家へ帰っている。すると、いつもは人があまり来ない俺の家の前の道に怪しげな全身黒い服を着た男がいた。

 男は俺を見つけると一直線で俺の元へ歩いて来て、

「君が無能力の少年かい?君のおばさんから君のことは聞いているよ。」

と言った。

 おばさんとは、捨て子だった俺を拾ってくれた命の恩人だ。

「それで、俺になんの用ですか?」

「今から君を鍛える。」

 あまりに急なことなので「鍛える?」と首をかしげ問うと男はゆっくり頷いた。

 それから、俺とその男は場所を移動しつつ自己紹介をした。

 男の名前は『龍宮りゅうぐうてん』。能力は身体強化で、主に腕の強化を得意とするらしい。ちなみに、とある界隈では有名な人らしい。

「ここら辺でいいか。」

 龍宮さんがそう言った。俺の目に写った場所は発展した街では、あまり見かけなくなった広い草原だった。

「ここで何をするんですか?」

「今から、ここで現在の壱の実力を測る。方法は『バトル』だ。簡単だろ?ただ力をぶつければいいだけなんだから。」

 バトルと聞いた瞬間俺が思ったことを察した様に、彼はこう付け足した。

「もちろん俺は能力を使わない。」

 その言葉を聞いて少し安心した。

(いや、まてよ?能力を使わないでも勝てるほどの実力があるのか?)

 俺が心の中で疑問を呟くと、彼は

「そろそろ始めるか。本気で来いよ!」

と人差し指をクイクイっと動かしたあと、戦闘態勢に入った。戦いに慣れているのか、その態勢からは覇気と若干の殺気を感じられる。

「よーい、スタート!」

と、『リレーのスタート合図か』と、つっこみたくなる掛け声とともに、彼の体がものすごい速さで俺のもとへ迫ってくる。俺は焦って右脚で蹴りを放つ。だが、その蹴りは難なく受け止められ彼の拳が俺の腹部めがけて飛んでくる。反射的に腹部を手で守るが

「あまい!」

と彼の声が聞こえたのとほぼ同時に彼の拳は俺の眼前まで来ていた。

 俺がまぶたに力を入れ、歯を食いしばっていると

「終了!壱の実力はだいたいわかった。」

と言う彼の声が聞こえ、俺は少し遅れて今の状況を理解するのだった。

〜次の日〜

 俺は龍宮さんと近くにあったホテルに泊まった。ホテルはすごく綺麗で、料理も美味しくいい所だった。今彼は、ホテルのチェックアウトをしている。昨日寝る前に聞いた特訓メニューだと基礎体力づくりと能力者から身を守るための戦い方を特訓するらしい。どんな特訓なのか楽しみにしていると

「お待たせー。」

とチェックアウトを終えた彼は遊園地に向かう子供の様にご機嫌で歩いてきた。

「そんなにご機嫌でどうしたんですか?」

と俺が聞くと

「いや〜、受付にいた可愛い子に告白されちゃってさー」

とニコニコしながら答えた。確かに龍宮さんの顔は整っていて、体も引き締まっている。女性から好かれるには充分すぎる。ファッションセンスはイマイチだけど…

「それで、なんて答えたんですか?」

「そりゃ、もちろん断ったよ。俺には妻がいるもん。」

 ん?今、妻がいるって言った?

「どうしたんだい?まさか俺のこと独身だと思ってた?」

 その質問に俺は苦笑いしながら頷いた。

 それから俺は彼に連れられ昨日とは違う場所に来ていた。

 今日は土曜日で、学校がないので朝から特訓するとのこと。

 連れてこられた場所は、コンクリートの床に見るからに怪しいフェンス、そして壊れたビルがいくつもあった。

「あのー、ここで何をするんですか?」

「特訓だよ。今からここに俺の知り合いの能力者を連れてくる。その人の攻撃を避け続けるのが最初の特訓だよ。ちなみに、その人には壱のことは身体強化系の能力者だと伝えてあるよ。」

 その話を聞いてから20分くらい経った後、その能力者だと思われる女の人が来て

「私は水野みずの由美ゆみ。水の球体を撃つ能力で大きさや速さはある程度なら変えられるよ。」

と自己紹介をした。自己紹介を聞いた後、俺も自己紹介をして、早速特訓が始まった。

 運動神経には自身があるので、最初は避けるのなんて簡単だと思っていた…

 だが、実際やってみると全然避けられなかった。

「どうしたの?早く避けて避けて。特訓にならないよ。」

 彼女はそう言うが、避けようとしても体が追いつかない。

 それから、1時間ほど水の球を受け続けていると

「大丈夫?」

と龍宮さんに声を掛けられ

「慣れるまでは、見てから動くんじゃなくて相手が能力を撃つ場所を予測して先に動くんだよ。」

とアドバイスを貰った。

 それから、30分ほど経っただろうか?

 放たれた水が俺の横を通り過ぎた。つまり水の球を避けることに成功したのだ。

「やった!」

 俺が喜んでいると、水野さんが

「おめでとう。じゃぁ、少しずつ水の速さを上げて球の量を増やすね。」

と言った。

 それから、俺は水に当たりながらも無我夢中で水の球を避け続けた。

 避け続けてしばらく経ち、俺はようやく全ての水の球を避けれるようになった。上を見上げると、もう空一面赤く染まっていた。

 水を放つのを止めた水野さんと遠目で見ていた龍宮さんが口をポカンと開けて

「す、凄いわ。あなた戦闘の才能あるんじゃない?」

「ま、まじかよ…俺でも一週間はかかったのに…」

と言った。

 ちなみに水野さんの話だと、普通の人が能力者の放った物を避けきるのには半年以上かかるらしい。

 龍宮さんって本当に凄い人だったんだなーと俺は思った。

 それから俺は龍宮さんの予約したホテルで水の球で濡れた髪と服を乾かし龍宮さんに次の特訓のメニューを聞いた。

「う〜ん。ここまで早くあれを習得するとは…とりあえず今日のところはゆっくり休んで、明日から毎日筋トレと体術を練習する。」

と言われた。

 ゆっくり休めと言われたので俺は、お風呂に入り歯を磨いて寝る支度を始めた。

 俺が寝る準備を済ませ、ベッドで横になっていると俺のスマホから着信音がなった。

 俺は高校では友達がいなく、中学の頃の友達とはしばらく連絡を取っていない。なので、俺に連絡をよこす人は龍宮さんかおばさん、それと先ほど連絡先を交換した水野さんくらいだ。

 俺が携帯の画面を見るとおばさんから「特訓はどう?」とメールが来ていた。俺は今日の特訓内容と成果を書いて送った。すると送信とほぼ同時に笑顔で親指を立てている絵文字が送られてきた。

 それから俺は疲れていたのか、すぐに眠りについた。

 あまり疲れは感じていなかったんだけどなー。

次回へ続く…

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