第7話 悪役アビロス、鍛えまくることにする

「うぅ~んん……朝か」


 良く寝た。そして、ぐっーと伸びをした足に当たる柔らかいなにか。


 俺の足を挟み込んで、タユンポヨンという感触が。


 白いフリフリのカチューシャがシーツの合間から見え隠れする。

 ちなみにこのフリフリはホワイトブリム? というんだっけか? 


 というかそんな正式名称などはどうでもいい―――


 問題は、起きたら美少女メイドが俺の足に絡みついているってことだ。


「ララ……」


 そう、足に絡みついているのは、俺の専属メイドのララである。


 自分の部屋で寝なさいというのに、何故か起きたら俺の部屋にいる。

 そんなメイドさんがモゾモゾと顔を上げた。


「んあ? ご主人様ぁ~~おはようございますです!」

「ああ、おはようララ」


「今日もいいお天気です!」


 起きて2秒で通常運転になるメイドさん。寝起き良すぎるだろ……


「ああ、ところでなぜ俺の部屋にいるんだ? ララは自分の部屋で寝ていいんだぞ」


 俺が転生する前の悪役アビロスは、ララを毎日ベッドに縛り付けていた。

 だが俺はもうかつてのアビロスではない。


「ふぇええ~そ、そんなぁ~~ボロボロのご主人様を昼夜問わずに看病するのは~~メイドの仕事です!」


 そう、魔族ガルバとの戦いから1週間が経っていた。

 ろくな訓練もしていなかった俺の体はもうボロボロで、最初の数日は身動きすら出来なかったのだ。


 ララはそんな俺を献身的に看病してくれた。朝も昼も夜も―――

 だから、まあそこまで強く部屋から出なさいとも言いずらい。



 だけど……



「ララ、ずっとありがとな。とても感謝しているぞ。が……その手に持っている縄はいらないからな」


 それ俺が転生して目覚めた時からずっと持っていない?

 どこまで縛られクセがついているんだ?


 俺はおまえを縛らないからな。もう二度と。




 ◇◇◇




「ふ~~美味しい! シェフの料理は最高だ!」

「はい、坊ちゃんのために心を込めて作りましたよ!」


 うちのシェフがニッコリと笑みをこぼして喜んだ。

 だいぶこの家にも慣れてきたし、少しずつだが、みんなの俺を見る目が変わってきたように思える。まあ、挨拶するとか当たり前の事しかしてないんだけど。


 ベッドでララに食べさせてもらうのも良かったのだが、やはり食卓についてしっかり食べるのが一番良いな。


「あらあら~もうすっかりお元気さんね~アビロスちゃん♡」


 母上が俺の頭をナデナデしながら微笑んだ。


 愛情あふれる家庭に、良き使用人さん。そして最高の専属メイド。

 アビロスは何故ゆえにあそこまでのクズになったのだろうか?


 まあゲームの設定だから致し方ないのだが。


「うむ、アビロスよ。今回は本当に良くやってくれた」


 父上の言っているのは、聖女ステラを魔族襲撃から救ったことだ。

 まあ、救ったというよりは2人共闘して切り抜けたという方が正しいが。


「もし、ステラ嬢になにかあったら……」


 魔族襲撃は、俺のマルマーク家領内で起こった事件だ。むろんこんなことは誰も予想しえなかっただろうが、今回の件でステラが亡き者になれば、マルマークの責任が問われるだろう。


 マルマーク家は4大貴族の中ではもっとも勢力が小さく、また他の3家からは基本疎まれている。

 なので、父上は大事にならずにホッと胸をなでおろしているのだろう。


 とにかくステラが無事で良かった。


「うふふ~アビロスちゃん~ステラちゃんといい感じなんじゃないの~~♡」



 ああ……そうだった。



 よく考えたら、これでもかというほど聖女と接触してしまったぞ……

 そしてゲーム主人公の聖女との出会いイベントも消化してしまった。


 ヤバいな……とにかくこれ以上ステラに接近するのは良くない。

 ゲーム主人公やステラのパーティーによって、俺はざまぁされて破滅するのだから。



 あと母上―――いい感じは絶対にないですよ。



 なにせ聖女のスカートめくり上げて、黒パンツ丸出しにしてしまったからな。

 いい感じになる理由がまったく見当たらないぜ。


「ところで父上、お願いがあるのですが」


 俺は無理矢理、話題を変える。


「おお! なんだ、言ってみろ。もっといい望遠鏡が欲しいのか? それとも縄か?」


 あ、それ元アビロスの変態グッズですから。主にのぞきとメイドの縛り付けに使うやつ。

 そうじゃないんですよ、父上。


「いえ、実は少し自分を鍛えたくて……」


 そう、今回の魔族との戦闘で俺は思い知った。

 今のアビロス戦闘力は底辺に近い。やれることと言ったら、スカートめくりと、ヘイトシールド(肉の壁)ぐらいだ。


 ゲーム知識を駆使して破滅回避するのはいいが、俺自身の改変も必要だ。


 俺の現状の持ち札は少ない。



 ――――――力が欲しい。



 多少のストーリー改変ぐらいでは揺らがない強さが。


 だが光が無いわけではない。



 ―――【闇魔法】、アビロスのみが使用できる唯一無二の魔法。



 こいつには無限の可能性がある。

 ゲーム制作会社が実際のゲームプレイには関係なく、設定上作っただけだからだ。


 つまり、ゲームバランスを崩さないような制限がかかっていない可能性が高い。

 無限に進化するかもしれない魔法。 


 しかし、現状の俺では全く使いこなせていない。


 そのためには。


 俺自身が努力するしかない。



 ハハッ、ヤバイ状況だってのに……ゾクゾクしてきたぜ。




 ◇◇◇




 そして、1週間が経った頃。


 屋敷の前に1台の馬車がきた。

 今日は俺の先生が来る日なのだ。父上にお願いした戦闘のプロ。


 ついに来たぜ! これでみっちり鍛錬を重ねて、アビロスは生まれ変わるんだ!


 にしてもどんな人だろうか? 

 ゲームではアビロスの修行シーンなどない。というか修行はおろか筋トレもなにもしていない。


 俺の先生、いや師匠となる人だ。楽しみだな。


 ガタ……


 馬車の扉が開き、綺麗な手が俺の目に入ってくる。


 ―――ん? 綺麗?


 続いて、豊満な2つのタユンポヨンが顔よりも先に扉から現れた。


 うおっ~~~デカっ!


 ―――んん? タユンポヨン?


 てことは、俺の先生は女性か?

 まあ、女性のすご腕騎士や冒険者もこのゲーム世界にはわんさかいるからな。


「―――出迎えご苦労。君がアビロスだな?」


 俺はその声の主を見て、目を大きく見開いた。

 彼女がムチムチしているからではない。


 俺の知っている顔だったからだ。



 ラビア・イーボン



 元王国騎士団のエースだった人。



 そして―――



 ――――――ゲーム主人公の師匠となる人だ。



 ちょっと待てよ……


 ―――なんで俺のところに来てんだよ!?







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