ゲーム世界の悪役貴族に転生した俺、最弱の【闇魔法】が実は最強だったので、破滅回避の為に死ぬ気で鍛えまくっていたら、どうやら鍛えすぎてしまったようです~なぜかメインイベントを俺がクリアしてしまうのだが~

のすけ

第1話 悪役アビロスに転生していた

 ある日目覚めたら、俺はゲーム世界に転生していることに気づいた。


 やたらとデカいベッドに、豪華な装飾が施された寝室。


 そして俺の眼前にある2本の足。

 メイド服を着た少女が俺に重なるように寝ている、上下逆さまで。



 ―――いやいやいや



 どういう状況?


 しかもよく見たらこのメイド、その細い両手をベッドに縛り付けられている。

 え? 少女を縛り付けて、熟睡してたの? 俺……。


 ―――なんか嫌な予感がする。


 俺はとりあえずメイドの足をそっと横にずらして、上半身をむくりと起き上げた。


 部屋の脇にある鏡を見て、嫌な予感は確信に変わった。



「アビロス・マルマーク……」



 まじか……


 俺はゲーム世界の悪役貴族に転生したのだ。



 ゲーム「ブレイブパーティー」通称ブレパ。

 剣と魔法のファンタジー世界。

 仲間を集めて、魔王を倒したり、定期的に発生する厄災イベントから世界を救ったりというゲームだ。


 まあようは自分好みのパーティーメンバーを集めて、目的を達成しましょうというものである。

 そして誰を仲間にするかにより様々な分岐点があり、何度やっても新しい発見があり飽きさせない工夫が凝らされている。だから人気があった。


 そして俺もこのゲームにはまった奴の1人である。


 やりこんだゲームに転生できたというのは、正直なところ嬉しいのだが……



 よりによってアビロスって。



 悪役貴族のアビロスは、一言でいえばクズである。


 プレイヤーたちのヘイトを溜めまくって、最後は主人公パーティーに成敗される。

 それはそれは気持ちよく。


 かくいう俺もプレイしていて、かなりの爽快感を味わった。



 ―――いやいやいや、ざまぁされるの俺じゃないか!



 ぶっちゃけ、この悪役は明確に殺害される。

 まあ、アビロスがこれでもかという事をしでかしまくったからなんだけど。



 ――――――冗談じゃないぞ



 ゲームならば、笑いのひとつも起きよう。

「あれ~~俺、アビロスプレイしてる~~このクソイベントなんだよ~~」みたいなかんじでな。


 いや……マジでどうしよう。

 俺が頭を抱えていると、かわいいうめき声が耳に入ってきた。


「ん……んぅ……あっ!!」


 うおっ! なんか目の前が急に真っ暗に――――――ってなにしてるの!?


 目覚めたメイドが、その小柄ながらもムチっとした足を俺の顔面に押し付けたのだ。


「申し訳ございませんです、ご主人様。あたし不覚にも眠ってしまって……」

「い、いや……寝てしまったのはいいから……ムグぅ……その足どけて……ムハァ」


 ヤバイ、なんか新たな世界に踏み込みそうだ。


「ふぇええ! ご主人さま、ララの事嫌いになったですか? ううぅ……」


 そうか、どこかで見た顔だと思ったら。


 ララ―――アビロス専属の美少女メイド。

 黒髪短髪ストレートに黒い瞳。細身ながらも見た目に不相応な2つの膨らみ。この年でタユンポヨンさせるとは……


 キャラとしては基本的にアビロスに虐められる。


 ゲームではここまでの詳細描写はなかったが、よく考えれば美少女の足裏を顔面に押し付けるシーンなど、なんの需要もない。


「ララ、そんな事しなくていいんだ」


 とにかくこの状況はマズイ、俺はそっと彼女の足を顔からどかした。

 そして、彼女を縛り付けている両手の縄をほどいていく。


 硬っ……いやいや、引くほどガチガチに縛っているな……アビロスの本気度に寒気が走る。


 あ、そういえばこいつの性癖のひとつは脚フェチだったか? いや足裏フェチ? 臭いフェチ?


 ―――ああ、もうどうでもいい。


 アビロスが最低な奴であることに変わりはない。



『ゲヘヘヘ~何寝てやがるんだ! もっと嗅がせろやぁ!』



 ―――!?


 んん? なんだ、今の声!?


 あたりを見回すが、この部屋に俺とララ以外はいない。


 ゲヘヘヘって……


 ゲームにおけるアビロスの口癖である。


 どうやら俺の中に残っているらしい元悪役アビロスの声が勝手に俺の口から出たようだ。別段、俺の思考や行動が制限されているわけではない。悪役クソ貴族キャラの残り香みたいなもんか。やっかいだな……


 ムグゥ……うん?


 ひとり考えにふけっていたら、再び目の前が真っ暗になった。

 ああ~この香り……ララの足だぁ。クンクン~~



 ―――って違う!



 なに変な世界にいこうとしてるんだ俺は!


 俺の顔面にのせられたララの足を優しくどかして、ララに言う。


「いや、ごめん。今の発言は違うんだララ」

「ふぇええ! ご主人さまが「ごめん」って言ったです!!」


「え? だって君にこんな酷いことをしてしまったんだ。謝罪は当然だよ」

「しゃ、しゃ、しゃざい―――って言ったぁ!!」


 ええぇ、そこまで驚くこと? 語尾のです口調が崩れちゃってるよ。

 どうやらアビロスは、相当酷い仕打ちをこのメイドにしていたようだ。というか俺本人なんだが。


「ふえぇえ、ゴメンなさいララが寝ちゃったからご機嫌損ねたんですね……罰ですね、ご主人様。自分でやりますです―――」


 はい? やる? 何を?


 ちょっとまてぇえええ! なんかナイフ取り出しましたけどぉおお、この子!



「ちょ! なにやってんの! 危ないっ!」


 ナイフを手首に刺し入れようとするララ。

 俺は考えるよりも先にララのナイフを掴んでいた。


「―――っ!」


 ぱたりとベッドに赤い雫が落ちる。俺の手のひらにはナイフの切傷。

 ヒリっとする感覚。


 間違いない―――


 ここはブレパというゲームが舞台ではあるが、現実世界だ。

 手を切れば血が出る。転べばケガをする。そして、首を斬られれば死ぬ。


 つまり、ゲーム本来のストーリーが続けば……



 ―――俺の首が飛ぶ。



「あ……あ……ご主人さま……どうしようです……」


 ララが泣きそうな声で、おろおろと震えていた。


「ララ、俺は大丈夫だ。そしてもう嫌な事はしなくていいんだ。あと自分を傷つけるようなことをしちゃダメだ」


「ふぇええ……ご主人さま変わったですか?」


「ああ、俺はもう以前のアビロスじゃない。今までの事は謝罪する。許してくれ」


 ララが目を白黒しながらも、コクリと頷いた。


 この子もアビロスの破滅に関わる1人だ。

 すぐには無理でも、誠意をみせてなんとか俺の味方にしないと。

 というか、そもそも人としてこんな扱いを続けるなんてあり得ないからな。


「じゃ、じゃあ、もっと嗅ぐですか?」


 再び足の裏を俺に向けてくるララ。なぜその思考回路になるんだ!?

 アビロスの調教はとんでもなかったらしい。なんとか調教済メイドを変えないと。


『ゲヘヘヘ~~バカが~足裏じゃねぇ、足爪に溜まったやつを嗅がせろやぁあ!』


 よし、おまえは少し黙ろうか。元悪役アビロスよ。

 どうやらたまにクソセリフが出てしまうようだ。


 にしても……


 最悪の悪役キャラに転生してしまった。



 だが幸か不幸か、鏡を見る限り俺はまだ子供だ。つまり努力で未来を変えられるはず。



 決めたぞ!



 俺はこのクソ悪役ポジションを変えてやる。そして―――


 ―――絶対に破滅回避してやる。





―――――――――――――――――――


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