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「ご来場のみなさんこんばんわ。今日はお集まりいただきありがとうございます」

 出囃子が終わると司会も兼ねる犬神が元芸人らしい流暢さで喋り始めた。会場から大きな拍手が沸き起こる。


「歌舞伎町怪奇祭、開演でございます。今日はですね、主に関西地方で活動なさっている怪談師の方々を集めまして、関東の怪談ファンの皆様にも、普段生でなかなか聴く機会の少ない怪談師さんのお話しをですね、直接生で味わって頂こうという趣旨のイベントでございます。申し遅れました。司会を務めさせて頂きます犬神マサヤです。よろしくお願いします!」

 

 犬神は怪談ファンの間では知名度も高く人気もあり、固定のファンも多い。客席から熱量の高い歓声が上がる。まだまだ駆け出しの俺とは、知名度という点で、天と地の差ほどに格の違う存在だ。

 だからこそ今日はチャンスでもある。熱心な怪談ファンに対して自分をアピール出来る。

 ここで知名度をさらに上げ、ファンを増やすことが出来れば、呪物コレクターという新しいタイプの怪談師として、更なるステップアップを果す事が出来るかもしれない。

 俺の夢は怪談師の仕事だけで食べていくことだ。きつい工事現場のアルバイト生活から早く抜け出したい。


「それではさっそく今日の出演者の方々をお呼びしましょう」

 その言葉でようやく、どっしりと腰を下ろしていた馬飼先生が立ち上がった。そわそわしている自分とは対象的に落ち着き払っている。

 忙しくなく髪をしきりに触って直していた白椿さんも、ピシッとした姿勢を正し、百戦錬磨の怪談師としての緊張感ある佇まいへと変わった。


「まずは京都在住の実話怪談作家であり、怪談界の重鎮でございます。馬飼隆二先生です!」

「じゃあ頑張りましょうね」そう言ってゆっくりと馬飼先生はステージに向かう。

「続きまして。女性怪談師の草分け的な存在。一度聴いたら忘れられない魅惑の声の持ち主、白椿さんです!」

 白椿さんも人気のある怪談師だ。女性の黄色い歓声も上がった。

「そして最後に、集めた呪物は百を優に超える、今、最も今後が期待されている怪談界のニュースター、呪物コレクター小田ヤスオさんです!」

 自分の名前が呼ばれると、一気に心拍数が上がった。何度ステージに立っても緊張感は和らぐことはない。

「熊ちゃん今日はよろしく頼むな」

 脇に抱えたぬいぐるみを両手で掴み顔の目前に持っていき小声でつぶやいた。その時。


 (しょうもない男────)


 頭の中で声がした。

 老成した女の声だった。



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