第2章 王立ロンデルネス修道学園

第12話 学園って広いね!

 いよいよ学園への入学が近づき、おろしたての制服をみんなで試着することになった。


「えへへー! どう? どう? カイン、似合う?」


 アリアは踊るように回ってみせる。真新しいスカートがふわりと舞い上がる。


 すらりと伸びた太ももに目を奪われかけ、咄嗟に顔を背ける。


「カインくん、どうかな?」


 アリアに続いて、レナも控えめな様子で尋ねてくる。


「ああ、よく似合ってる。可愛いぞ」


「か、かわ……っ!? あ、ありがとう……」


 レナは頬を染めて、うつ向いてしまう。


「ねー、わたしはー?」


「ふん、馬子まごにも衣裳いしょうだな」


 俺は投げやりに言って、そっぽを向く。


「えぇ~、なにそれ。レナちゃんと態度違くない?」


「あはは……。大丈夫、お姉さんも似合ってますよ。カインくん、お姉さんに正直に言うのは照れくさいだけなんだと思う」


 レナが勝手にフォローを入れるが、あながち的外れでもないのが腹立たしい。


 はっきりさせておくと、可愛い。アリアは、ものすごく可愛いのだ!


 ここ数ヶ月で、アリアはもともとの美少女ぶりに拍車がかかったように思える。


 特に身体的な成長が目覚ましい。


 身長が伸びるのはわかるが、胸や尻の成長も著しい。以前よりずっと女性的になったスタイルが、可愛らしい制服によって強調されているようだ。


 というか、おかしい。俺の知ってる勇者アリアはこんなに発育が良くなかったぞ!


 勇者アリアはもっともっとスレンダーで、まさに美しい刀剣を彷彿させるスタイルだったのだが……。


 いや、考えてみれば納得だ。


 成長期のこの時期、勇者アリアは過酷な放浪生活で充分な栄養を得られていなかったらしいからな……。栄養満点の今のアリアと、スタイルに違いが出るのは当たり前か。


 だがしかし、油断するとチラチラと目が惹かれてしまうのには納得できない。


 くそう、やはり俺は異常だ。宿敵となるはずのアリアに、これほどの魅力を感じるなど!


「ふぅん、カイン照れてるんだぁ? 可愛いなぁ、もう!」


 アリアはこちらの気も知らず、無防備に抱きついてきた。


 むにゅっ、と豊かな柔らかさに襲われ、俺は慌てて離れる。


「わあ! こ、こら! はしたないぞ!」


「ええ~? 姉弟きょうだい同士でなにがはしたないの?」


「少しは自分の体について自覚しろぉ!」


 するとアリアは視線を落とし、自分の体を観察する。そして、にへら、と笑う。


「そっかぁ、そういうの気になっちゃうお年頃か~。カインのえっちぃ~」


「はぁ!?」


「カインくん、えっちなんだー……」


 くすくすと笑いながら、レナもアリアに追従する。


「か、からかうな、ふたりとも!」


 おのれアリアめえ! 色気という新たな武器で、この俺を翻弄しようというのかぁ~!


 ――そして、さらに二週間後。


 俺たちはフェルメルン家の馬車で、王立ロンデルネス修道学園の校門をくぐろうとしていた。


 アリアははしゃぎっぱなしだ。


「わあ、学園って広いね!」


「ああ、敷地だけなら、ちょっとした町くらいはあるらしい」


「すごいよ、すごい。おっきな建物があっちこっちいっぱいあるよ!」


「学舎に学生寮に、訓練場。王立の学園なら、あって当然の施設ばかりだな」


「も~、カイン、どうしてそんなに感動が薄いの?」


「事前に説明を受けたからな」


「先に知ってても、実際に見たら感動するものでしょ? ほら、ちゃんと外を見てみようよ!」


「あんまりはしゃぐな。せっかく淑女の振る舞いも少しはできるようになったのに台無しになるぞ」


「ふーんだ。今は知ってる人しかいないから、いいんだもーん」


「やれやれ」


 アリアに言われたからではないが、俺も馬車の窓から学園の様子を眺める。


 この王立ロンデルネス修道学園には、様々な分野で秀でた者が集まってくるという。


 魔法。神学。武術。学術。あるいは、勇者の力が覚醒した者。


 生徒たちはエリート階級生まれの者ばかりだが、秀でた能力を買われ、貴族が後見人となって入学する庶民もいる。つまり俺たちだ。


 学年は年齢に関わらず、入学した時点から加算されていく。アリアは俺やレナより歳上だが、この学園では同学年として扱われる。


 代わりに、その生徒の実力に見合ったクラスに振り分けられるシステムになっている。


 エリート中のエリートであるSクラスから、最下級のDクラスまで、5つのクラスがある。


 所属クラスは、学期ごとの試験成績によって随時変更されていくそうだ。好成績ならクラスは上がるし、成績が悪ければ下がる。


 では入学時には、どのようにクラスを決めるのか?


 俺は向かいに座るレナを見る。今でさえ集中して、魔力を高めようとしている。


「アリア、お前もそろそろレナを見習って試験に備えておけ」


「へ? 試験? 私たち、推薦だから免除されたんじゃ……」


「それは入学試験だ。クラス選定試験は、このあとすぐだぞ」


「ええー!? 聞いてないよぉー!」


 貴族の推薦の例もあり、全員が入学試験を受けるわけではない。というか、ほとんどが推薦入学だ。


 だからこそ入学直後に生徒の実力を計る試験が用意されている。


「いや説明はちゃんとしてもらっただろ……」


「ああぁ……しまったぁ、混同してたぁ……!」


 にわかに焦り始めるアリアである。


「まあ、そう心配することはないさ」


「カイン……?」


「お前は、魔王のひとりやふたり片付けられる勇者になるんだ。この俺と同じで、Sクラスは約束されたようなものだ。心構えだけしておけばいい」


「そうかなぁ……?」


「信じろよ。お前が全力を出せば、どんなやつだって敵わない」


「……わかった。カインが言うなら信じる。全力でやってみるよ!」




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