*
あの子がいる。正門で不機嫌そうにしていたあの女子生徒が、自分の後ろの座席に座り、来週からの日程表を無表情で眺めている。今朝のようなどこか浮かない表情は消え、今の彼女からは何の感情も読み取ることができない。
まさか同じクラスになるとは……。
そんなことを考えていると、彼女は希春が自分を観察していることに気が付いたらしく、おもむろに顔を上げる。視線がぶつかり、希春は思わず「あっ!」と声を上げてしまう。何か話さないと、という焦りで口が勝手に話し出す。
「あっ、あの、わたし、織坂希春っていいます。瑠璃ヶ丘中出身です。よ、よろしくお願いします」
数瞬の沈黙が降りる。『よろしくお願いします』と同時に下げた頭が上げられない。
出だしからミスしちゃったかな。勝手にしゃべりだして、何やってるんだろう。
おそるおそる視線を上げると、彼女は胸元を流れる綺麗な黒髪を右手でいじりながら口を開く。
「
彼女は華やかな顔つきに似合うクールな声で自己紹介をして、一度言葉を切る。何を言われるのだろう、と希春は思わず身構える。
「どうして敬語なの? 同級生ならタメ口でいいと思うんだけど」
「へっ?」
「いや、だから。同級生なんだからタメ口でいいでしょ。なんで敬語遣うの?」
そう言うと鏑木緋奈は、今朝のような浮かない顔でも、先ほどの氷のように冷たい無表情でもなく、きょとんと首をかしげて真っすぐな視線を希春にぶつける。
――万華鏡みたいな子だなぁ。こんな表情もあるんだ……。
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