第16話 汝の名は

 日曜日は一日中『ユーグレイア戦記』をして過ごした。

 はじめは死んでばかりだったが、美濃の言う通り死にながら上達していった。

 コツを覚えてからはぐんぐん上達した。


 まあなんでも完璧にこなす俺に不可能なことなどない。

 少し特訓すればゲームごとき、他愛のないものだ。



 物語は俺が天空の聖女に消し去られるところで終わった。

 結局元の世界に戻るヒントなど、どこにも隠されてはいなかった。

 しかも俺が異世界転生させられた後の世界についても、なんにも分からないままだった。



「えっ!? ユーグレイア戦記クリアしたの!?」


 月曜日の朝、美濃にそのことを伝えると、目を剥いて驚かれた。


「ああ。しかしストーリーは中途半端なところで終わるし、そもそも人間どもの勝利だなんて胸くそが悪い」


「あー、ストーリーはまだ続きがあるよ」


「えっ!? どういうことだ? 確かに終わったはずだぞ!?」


「いまの更新分まではね」


「更新分?」


「あのゲームは一ヶ月に一回、アップデートされてストーリーが進むんだよ。っていってもあまりの難しさで最新のストーリーまで進んでいるプレイヤーは全体の0.1%にも満たないらしいけど」


 なんとあの先の物語もあるのか!?

 それはなんとしてでも知りたい。

 俺が異世界転生したあと、あの世界はどうなってしまうんだ!?


「その更新とやらはいつだ!」


「ちょっと待って。えーっと……あ、今日だね。今日の夜六時くらいにメンテが明けるみたいだよ」


「なんということだ……早く続きをしたい」


「相当あのゲームにハマってるんだね」


 美濃は笑いながら俺の顔を見ていた。




 今日一日はなんにも手がつかないくらいふわふわしていた。

 放課後は花蓮に誘われたが、それどころではないと断って急いで家に帰ってきた。


 午後五時五十分を回った頃から何度も更新ボタンを連打して、メンテナンスが明けるのを待ち構えていた。


「来たっ!」


 長いダウンタイムを終え、ログインをする。


 画面ではすぐに前回のラストシーンの続きから始まる。



 ~~~~

 ~~



「やったか?」


 勇者カインは天空の聖女が放った光の波動を見つめる。


 衝撃で巻き起こった砂煙がゆっくりと消えていき、シルエットが浮かび上がってきた。


「シュバイツァーっ……まだ生きていたのか!?」


「そんなっ……魔王は確かに光の彼方へと封印したはずですっ!?」


 聖女カレンも驚愕の表情で呟く。


 魔王はゆっくりと立ち上がり、宙に浮く天空の聖女を見上げた。


「シュバイツァー! 今度こそは許しませんっ!」


「シュバイツァー? 誰だ、それ」


 魔王はぽかんと惚けた顔をする。


「なにを惚けているのです! 往生際が悪いですよ!」


「ちょっと待て。俺はシュバイツァーなんかじゃない! タイガだ! シバタイガ!」



 ~~~~



「はぁああああああああああ!?」


 スマホを片手に大声で叫んでしまった。


 なんと俺が司波大我に転生したように、司波大我も俺に転生してしまっている!

 つまり俺と司波大我は入れ替わってしまっていた。


「え? ちょっと待て、ちょっと待て!? どうなるんだ、これ!? 」


 確かに俺が大我の身体に乗り移り、大我はどこへ行ったのかと疑問ではあった。

 しかしまさか俺と入れ替わっているとは思いもしてなかった。


 成り行きが知りたくて、慌ててゲームの続きをする。



 ~~~~


「なんだ、よく見たらお前、カレンじゃないか。なんで金髪なんだ? それに瞳が青い。カラコンか?」


「なにを言ってるんですか? 私は元からこうです」


「ん? あっちにいるのはユーマ? って、ああ!? ここってまさかユーグレイアの中!? 」


 シュバイツァーはタイガと名乗り、急にあたふたし始める。


「じゃあ俺、殺されるルートしかないじゃないか! そんなのヤダ! 降参する! 降参だ!」


「ふざけるな! これまでさんざん人間を殺しておいて、虫がよすぎるぞ!」


 勇者が剣を構えて怒鳴り付ける。


「お、お前らだって魔族を殺しただろ! お互い様だ! これからは魔族と人間は共存していこう、うん、それがいい」


「うるさい! 問答無用!」


 勇者が剣を振りかぶって大我に襲いかかる。


「待ってください!」


 天空の聖女がバリアを張りながらタイガと勇者の間に飛び込む。


 バリアに当たった勇者の剣がカキーンと吹っ飛んだ。


「なにをする、カレン! そいつは王国を千年苦しめた魔王だぞ!」


「魔王から悪の波動が消えてます。降参という言葉に嘘はありません」


「だとしてもここで殺さなければ必ず復讐してくるぞ!」


「いけません。憎しみや復讐はなにも解決しません」


「約束しよう! 俺は復讐などしない! これからは人間と力を合わせてこの世界をより良い世界にする、と!」


 タイガは高らかに宣言する。



 〜〜〜〜



「おいおいおいおい! ちょっと待て! なにを勝手なことを!」


 俺は届くわけないのに、スマホに叫んでしまう。


「俺が人間と協力してより良い世界にする、だと!? そんなことするか!」


 これはとんでもないことになってしまった。

 一刻も早く元の世界に戻り、軌道修正しないと!


 ─────────────────────



 なんとシュバイツァーと同じように大我も転生してしまっていた!


 いったいどうなるのでしょうか?


 ここからは二人の主人公、魔王と大我の物語となります!

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