満月の夜に君と晩酌をする。

@masiro-0

4月

第1話

どこか、淡い桃色に包まれる暗い夜にベランダへ出る。

少しづつ暖かくなってきたとは言え、まだ肌寒くて、人肌恋しいとはこのことだと身をもって実感する。


ベランダに置かれた、小さい机と、低めの椅子ふたつ。

僕は必ず右側に座る。


林田はやしださんはこのお酒で大丈夫でした?」


満月のような丸メガネを光らせてベランダに入ってくるのは、一つ下の深月みつきさん。

僕が20で、彼女は19。

つまりまだお酒は飲めない。


「あぁ、うん。大丈夫だよ。ありがとう。」


少し冷たくなった手がさらに冷たくなる。

キン、と骨に染みる冷たさだ。

今日は春ということもあり、少し前から買っておいた桜酒を開ける。

淡いピンク色でかわいい。


「わ!そのお酒可愛いですね!私はまだジュースなのに…」


残念そうに溜息をつきながら彼女は左側の椅子に座った。

彼女の手には有名なグレープ味の炭酸飲料が握られている。

それをワイングラスに注ぐと、満足気に微笑んだ。


「深月さん、ほんとその飲み方好きだね。」


少し独特で、子供っぽい飲み方。

彼女はこの晩酌が行われると、必ずと言っていいほどこの飲み方をする。

子供っぽい飲み方だけど、確かにやりたくはなる飲み方だ。


「この方が味に深みが出るんですよ。」

「そんなことは断じてないでしょ。」


くすくすと笑い合いながら、僕もお酒の用意をする。

桜酒を注げば、桜が瓶の中から飛び出した。

確か塩漬けの桜が入っていると書いてあったからそれだろう。


1口試しに…と、1口よりももっと小さく飲む。

淡い甘さが拡がって、飲みやすい。

女性にももちろん飲みやすい甘さだろうが、男性にも飲みやすいだろう。万人受けする味だ。


「味の感想、教えてくださいよ。」


お酒を見ていたから彼女からの熱い視線に気づかないでいた。

ふと顔をあげれば、目がバッチリあってしまってどこか恥ずかしい。


「うーん、飲みやすい味、だね。甘いよ。」


食レポなどに慣れてない僕は、言葉を選ぶが誰でも出てくるような味の感想しかない。

それを聞いた彼女は素直に「そうなんですね」と言って笑ってくれる。


「にしても、出会ったのが一年前だなんて。時の流れは残酷で…早いですね。」


僕の部屋のベランダから綺麗な満月が見える。

彼女もきっとそれを見つめてる。

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