百合ドン。どんなものだかチャレンジチャレンジ〜
春川晴人
上編
ここは女子校。
一見すると平和でのんびりで、お花畑のような場所を想像する人も少なくないだろう。
だが、近年では女子高生といえども飢えた猛獣のごとく、下校時間までに化粧や髪型なんかを完璧にしたてあげて、ショッピングモールで仲間と甲高い声で笑い合い、今こそ蝿取り紙に囚われた蝿のごとく、引っかかる男子は多々としてあったりもする。
一方の男子校では。
だいたい女子校とおなじようなものかもしれない。情報が少なすぎるため、すまない。
さて。放課後の女子校。校舎に残るは手芸部や美術部、イラスト部なんかもあったりなかったりする。
わざわざ女子校に入ってまで手芸部に席を置く二人の女子は、この学校ではじめて知り合ったにも関わらず、それはそれは仲良しで、今ではオーケーコンビと呼ばれて有名だ。
いや、一部の生徒からは、二人がお付き合いをしているのではないかと疑い、噂になるほど仲が良い。
が、結局二人にとって、手芸と言ってもコスプレ衣装の制作や依頼なんかによって、忙しかったり忙しくなかったりもしている。そして二人共共通の趣味がある。手芸と腐女子。そう、二人の趣味が趣味だけに、他の生徒が話しかけるのを戸惑うくらいには完璧な腐女子なのだった。
さて、先日某コ○ケで仕入れてきた獲物をもとに、あーだこーだくっちゃべる二人がいた。
オーコはなかなか艶っぽい本を好む。なので、あるページでふっと手が止まる。
「ねぇ、ケーコちゃん。あたし今まで一回も壁ドンしたことがないんだよねぇ。おっかしいなぁ。あたし、そこまで魅力ないかな?」
「オーコちゃん、多分それが普通なんじゃないの? ここ一応女子校だし」
そしてケーコは、オーコが今ガン見中の本を見て、ははぁーん、と納得した。
「いや、これは作られた世界の美であってさ。それに、うっかりそんなことしてたのがバレたら、普通に百合好きにエサを与えることになる。なんなら自分たちを犠牲にしてまで撒き餌にされてみる?」
見かけによらず、ケーコは冷静な女の子だった。ケーコの所有する獲物はオーコより多いが、たいがいイヤラシイ描写の本は一冊もなく、麗しい、麗しいと言っては丁寧にページをめくるのだった。
さて、一方のオーコといえば。
「ねぇ、あたしたち、人生で一回も壁ドンすることもなく、結婚して廃れて○ぬの? やだやだ、そんなのイヤだっ」
「相変わらず話が極端だね。オーコちゃんは。なんで急にそこまで壁ドンにこだわるの? それと、あたしたちだよ? うまいこと結婚できるかなんてわからないじゃん。うっかり後期高齢者になるまで一緒にいることになるかもわからないし」
まったくもって、いいとこなしの二人である。
「わかった。だったら!! 今やろう!! ケーコちゃん! 気持ちが煮えくり返っている今こそ、ささ、ケーコちゃんはそこに立って」
「イヤだ、って言ったでしょ? 気持ちが煮え返ってたら、かえって危ないし、だいたい、ああいうのはキラキラしたリア充か、美しい美男子同士のものと決まってんの。あたしたちがここで壁ドンして、誰がおもしろいのさ?」
「そ、そこまで否定されてしまうと」
一見、オーコがしおらしく見えるようだが、この後どうやってケーコを出し抜いてやろうかという気持ちが沸き立ち、ぐふふと笑うのだった。
つづく
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