第4話 旅立ち
それから徳田神社に戻った後大広間に案内され、そこにはイナメさんと共に村営む面々が揃っていた。
まず鍛冶屋のゲンさんに剣術の師匠のタキモト師匠。それから村一番の豪農ハギヤさんだ。
他もちろん彼ら3人だけでなくもっといるが、この数人除いて私は名前を知らない。
あ、だけどゲンさんの後ろにいるのは妻のミチさんだったかな。また、彼ら以外もナビィさんとカグヤが座り私を見ると嬉しそうに微笑む。
私がカグヤとナビィさんの隣に座った後、話し合いが始まった。
まず最初に私は天人とかぐやについて話した。
無論、信じてもらえなかったけどナビィさんが事細かに説明し無理やり納得させる。
タキモト師匠は何も言わなかったけど、ゲンさんはぶつぶつと文句を言っていたが無理もない。
そして説明を終えるとゲンさんが話し始めた。
「カグヤが小さくなった理由は分かった。しかしあの祠に妖怪なんていたのか?」
妖怪という単語を聞いてかタキモト師匠はゲンさんを見る。
それを見たゲンさんもタキモト師匠と目を合わせた。
「タキモトは知っているのか?」
「えぇ、確か祠には某の大祖父と源マカの大祖父が協力して封じた変異妖怪がいると、伝えられておりました。名は炎を吐くカブラキと書いてあります。そしてこのような勾玉が見つかりました」
タキモト師匠はそういうと床に赤く輝く勾玉を置いた。
「待ってください。それは本当なんですか?」
私より先にナビィさんが反応した。
カグヤはもう退屈だったのかナビィさんの膝の上で気持ちよさそうに寝ている。
師匠が言うにはあの祠は私と師匠の大祖父が封じたモノで間違いがないらしく、ナビィさんの考察ではあそこまで強くなった要因にあの赤い勾玉らしい。
それから話しが終わり気づけば日が登ろうとしていた。
ゲンほかイナメさんと私、それからカグヤとナビィさんを除いた人達は既に帰った。タキモト師匠とはあの後一言も喋らなかった。
私は寝る前にイナメさんに呼ばれ部屋に入るとイナメさんの前には地図が広げられていた。
「マカよ。その月からの異形と争うには勾玉は必須とあったな」
「はい。ナビィさんが言うにはですけど」
「であれば狛村から三里南に行った先にある小切谷村、そして小豆山と阿波波姫山を超えたところにある人狼の里、天河村がある。この二つの村にはかつて白き獣が後の勇者のために勾玉を納めたと言い伝えられている」
「で、そこに行けば」
「うむ。カグヤちゃんを守る術が見つかるであろうな」
——————。
————。
——。
天人はいつ再び来るか分からない。今日かもしれないし明日なのかもしれない。
それからたっぷり寝た後、その日は旅の準備をしていた。山に入って山菜を採ったり、さらに狩人の家やイナメさんが蔵に入れてある食料を分けてもらうなど準備を進めた。
そして現在いろいろお世話になった人たちの家を回っている時、カグヤが後ろをついて来ていた。
「で、どうしたのカグヤ?」
「マカ旅に行くんでしょ? お婆ちゃんから聞いたの」
「あーイナメさんからか」
カグヤは表情には見せないけど、長く一緒に暮らした経験からかどこか暗い表情に見える。
「大丈夫だよ。絶対帰ってくる。そしてカグヤを守ってあげるからね」
「本当?」
「うん。本当」
そういえば私が用事で面倒を見れない時カグヤのことは基本的にヤトノスケが見てくれていたけど普段どこで何をしていたのかは詳しく聞いていない。
今更ながら聞いておけば良かった。
それからゲンさんとトベさんにも挨拶し、最後に一応タキモト師匠に挨拶しようと探したけど見つからなかった。
まぁ、別に良いか——。徳田神社に帰るときの私の心はどこか寂しかった。
翌朝、まだ薄暗い時間に私は旅立つ準備をする。
剣、盾を肩に掛け。昨日分けてもらった干し肉。それから干し飯が入った木綿の袋を腰にかけた。
そして地図など必要な道具を袋の中にまとめた。
イナメさんは私が旅立つ準備を手伝いながら「本当にもう行くのか?」と冷静な口調で言う。
「はい。物事は早い方がいいと言われているので」
イナメさんには本当に悪いと思っている。
昨日帰った後イナメさんにもう出発すると伝えたため、最初は驚きながらも何も返さないで準備を手伝ってくれたのだ。
「全く。お転婆娘は忙しいのう。が、カグヤには一言必ず言うのだぞ」
「うん。分かってます」
「マカ?」
早速カグヤが眠たそうな顔で寝室から出てきた。
「——」
カグヤはしばらく私を見る。そして理解が追いついたのか少し驚いた顔を見せ、私の腰にしがみついた。
「もう行くの?」
カグヤは小さな声で言う。
「うん。そうしないと今度こそカグヤは天からの使者に攫われちゃうの。私はそれが嫌。だから旅にいってもっと強くなって帰ってくる」
「それは私も聞いていたから知ってる」
「——ごめんね」
すると襖の奥かナビィさんが出てきた。
ナビィさんの寝癖がついた長髪が日の光を浴びて藍色に輝いていた。
「もう行くのですか?」
「……ナビィさん」
ナビィさんは寝癖がひどい髪を揺らしながら私の元にくる。そして「少し待ってください」と言い部屋に戻る。
しばらくガサゴソと音が聞こえた後竪琴を持って出てきた。
「この竪琴を持って言ってください」
「——これ、良いんですか?」
「はい。いずれ必要となってくるでしょうから」
ナビィさんは寝起きだからか言葉には棘がなく、まるで名前も顔も知らないお母さんのように見えてしまいそうだ。
ナビィさんは私の方に手を置いた後、流れるように持っているものを触っていった。
「ここから先は何が起きるのかはわかりません。ですが、少なくとも味方がいることをお忘れなきよう。それと、昨日から思っていたのですがその剣……」
ナビィさんは私が肩にかけている剣に触れると表情を暗くした。
「——どうしてこれが……」
「——言い忘れていたんですが赤い髪の私と同い年ぐらいの子がくれたんです。名前はツムグさんでした」
「ツムグ、聞いたことないな」
イナメさんが顔を顰める。
「まぁ、再び村に現れたら捕らえて尋問することにしよう。ナビィさんとやらも、協力してくれるだろ?」
「えぇ、構いません」
イナメさんの言葉にナビィさんは頭を下げる。
「ほれ、行くのなら早い方がいいだろう」
「そうですね」
私はカグヤを離すとナビィさんを見た。
「では、カグヤをお願いします」
「えぇ、任せてください」
次にカグヤを見る。
「じゃ、行ってくる。私がいなくても寂しくならなくても大丈夫だから。すぐに帰ってくる」
「——分かった」
「いや、村の出口まで送ってやろう。カグヤちゃんも行くだろう?」
イナメさんがそう言うとカグヤは恥ずかしそうに頷いた。
あの行動、昨日の記憶が消える前のカグヤみたいだ。
私はイナメさんとカグヤの3人で村の出口に向かう。
「記憶が確かならこの村の近くにある、小切谷村は古い時代白き獣より勾玉を授かったと言われておる。一応言っておくがあの村は我が狛村を恨んでおるため礼節を欠くな。彼らも無闇に絡んで争いたくないはずだからな。そこに立ち寄った後はさらに北に進んだ先にある天河村に行くのだ」
私は袋から地図を見ながらイナメさんからの話を聞く。
小切谷村は大体イナメさんの説明通りで間違いなさそうだ。場所も把握したし大丈夫なはず。
どうして恨まれているのかが分からないけど、今は良いだろう。
そして私たちは村の出口まで来た。
「マカ……」とカグヤは悲壮な声を漏らす。
私は振り返ってカグヤの頭を優しく撫でた。
「大丈夫。一月経つまでにはすぐに帰る。もし寂しかったら村の子供達と遊び」
「出来ない。知らない人たちだから」
「問題はない。あの子たちは良い子よ。説明してくれたらきっと受け入れてくれる」
私は雑木林に隠れる子供たちを見る。
子供たちは不安そうにカグヤを見るあたり、一昨日のことを親から聞いたのだろう。昨日現れなかったのは多分カグヤとどう接するべきか悩んでいたからに違いない。
それにしてもこんな朝早くから来るなんて、もしかしたらずっとイナメさん家の近くで私を監視していた?
私は雑木林にいる子供達に向けて手を大きく振った。
イナメさんは私の行動を不審に思い、イナメさんも雑木林を見る。子供たちは焦った様子ですぐに隠れてしまった。
それを見た私は笑みを溢す。
「——ではイナメさん。カグヤをよろしくお願いします」
「——あぁ。もちろんだよ。マカこそ気をつけてな。お前さんは己が思っている以上に美しい女じゃ。変な男もしくは女に目を付けられると夜道しかり、白昼堂々乱暴される可能性を鑑みて、他人の家に泊まるよりも宿があればそこに泊まるが良い。もしくは潔白の心を持つものの家にな」
「ははは……。心配しすぎですよ」
私は苦笑いしつつ、何歩か後ろに下がってイナメさんにお辞儀した。
「では、行ってきま——」
「マカ!」
「えっと、え?」
顔を上げると先ほどまで畑の手入れをしていたでであろうヤトノスケが泥だらけのまま裸足で走ってきた。
ヤトノスケはカグヤを暫くした後、視線を私に移すと励ますかのように微笑んだ。
「カグヤのことはトトとカカから聞いたよ。けど俺たちはカグヤの友達だ。カグヤがどんな姿になっても驚かないし、むしろ受け入れるから安心して」
「——」
カグヤはヤトノスケをじっと見つめた。
カグヤは多分彼のことは覚えていないだろうが、体が覚えているんだろう——きっと。
私は息を大きく吸う。
「じゃ! カグヤのことは任せたから」
「うん。頑張ってカグヤをこんな目に合わせた悪い奴らを倒して。寂しくなったら相手をしてあげるから」
私が大きな声で返すと雑木林から次々と子供たちが出てきて私に手を振った。ヤトノスケも知らなかったのか驚いた顔をした。
イナメさんはその光景見ると微笑んで静かに振り返り私を見る。
「これはこれは。本当にみんな仲良しじゃのう」
「——そうですね」
私は泣きそうなのを堪えイナメさんに「行ってきます」と言い、村から出た。
その時、道の奥から胸騒ぎがする空気を感じた。
————。
某はタキモト。先祖代々狛村を守り、源氏の者に剣術を指南してきた一族の者。
某はあの子とどう接すれば良かったのか。
某の弟子、源マカはすでにこの村を出て旅に行った頃だろう。そんな某は今、沢に逃げて一人黄昏ている。
かつてこのタキモトはマカの父君から、将来この子を当主にし継がせると申され、某は剣術、徳田神社の巫女イナメが勉学を任された。
マカは一言で済ませると優秀な子だった。某の厳しい教えにも耐えた。だが、十歳になったある日を境に表情が暗くなり涙を流した。
それもその場所は狛神の森で、入り口付近で涙を流しその日徳田神社にいた某とイナメ様の元に泣きついた。
これを見て某は心の奥底で戸惑った。
今までのそうに厳しいながらも祖父の代わりをして慰めるか、父君の言葉に則り『源氏たるもの涙を流すな』と厳しく接するかを。
だが、そんな判断が咄嗟にできる訳がなかった。
この子は今まで涙を流したことが無かった。だがその日は抑えて優しく接することが出来たはずだ。
しかし、あの子は剣を持つことを拒絶した。続けて剣なんて触ったことがないや居ないはずの兄がいなくなったなど妄言を言い始めつい頬を叩いてしまった。
無論、それ以降マカは某を見ると失望の眼差しを向け、イナメも某を叱った。
「流石に叩くのは……」
そう言われた。
もしかすればあの子は心の奥底で何か鬱憤を溜めていたのであろう。
謝ろうとは思ったが謝れず気づけば四年も過ぎた。
そして今回キバラキに襲われたマカにまた怒ってしまった。軽率だった。
褒めたかったがどう言えばわからずに。
蛙人に鍛えられたからか確かに怪我は思っていたよりも浅く、生きていてくれて嬉しかった。なのに謝れなかった。
「どうにかして、話せるようになるか……」
マカよ、どうか無事で……。
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