第2話 絶望の俺、歓喜のお前

 翌朝。俺はいつもと違う目覚め方をした。


「朝からピコピコうるせぇ……」


 スマホがありえないくらい鳴ってる。アラームの時間ではないはずだが……。すぐに画面を確認する。


『ひかりからメッセージです』

「あいつ……」


 朝から迷惑だ。既に98個ものスタンプを送りつけてきた。なんのつもりだ。


『おはよう!』


 月宮からのメッセージだ。俺は既読だけつけ、画面を消した。そして出かける準備をして、家を出る。


「眠い……」


 電車の揺れは心地よい。人を眠りに誘う悪魔だ。俺は必死に寝ないよう耐える。ここで寝たら乗り過ごしてしまう。


「あっ、日野くん。やっほー」


 このバカそうな声は……。朝から最悪だ。


「月宮、何の用だ」

「日野くんを見かけたから」

「そうか、じゃあな」


 俺はまた目を閉じた。


「ああー! また私を無視した!」

「話しかけないでくれ」

「えー、日野くんってそんな冷たい人だったの?」

「約束しただろ。もう話しかけるな」

「えー、そんなのやだよ」


 俺はため息をつき、月宮を見る。月宮はきっとすぐに人気者になる。誰にでも話しかけられるやつが『友達作りレース』では最強だ。だが、俺はそのレースに加わるつもりはない。観戦すらしない。


「日野くんって友達いないの?」

「いらないんだよ。できないんじゃなくて」

「つまんないの」


 つまらない? 常に友達に合わせて行動して、自分を押し殺す方がつまらないと思うが。


「ねえ、一緒に学校行こうよ」

「嫌だ」


 俺が即答すると、月宮は嫌な顔をして俺を睨んだ。俺も睨み返してやる。すると月宮はため息をついた。


「はあ……。日野くんが何を言ったとしても、私は必ず日野くんと友達になってみせる!」

「無理だな」


 ちょうど電車は目的地に着き、俺たちは同時に降りた。


「ねえ、せっかくだから……」

「一緒に行かないか、とか言うんだろう? 無理だ」


 俺は月宮の考えていることが分かっている。何度もこういう経験をしたことがあるからな。


「やっぱり面白いね」

「……」


 ☆


 どれだけ離れろと言っても、月宮はずっと俺の隣を歩く。学校に着いても俺の席の周りを占拠する。落ち着いて本が読めない。


「ねえ、それなんて本なの?」

「関係ないだろ」

「えー、気になるじゃん」


 月宮は俺の本に興味があるのか、本を覗こうとしてくる。俺は慌てて本を閉じ、カバンの中にしまう。こいつに見られたらろくなことにならない気がする……。見られて困るような本ではないが。


「日野くんって何の部活入るの?」

「どこにも入らない」


 部活はどうでもいい。結局、仲間との協力を求められる場だからだ。

 そうしているうちにチャイムが鳴り、ホームルームが始まる。ようやく月宮は離れていった。担任の桜木真奈美さくらぎまなみ先生が教室に入る。スーツ姿にメガネをかけている女性。年齢は20代後半といったところか。


「それでは、昨日書いてもらった委員会の希望用紙を回収します」


 先生は各席を回り、用紙を回収していく。俺は図書委員会を選んだ。


「それでは、次に学級委員を決めたいと思います」


 そこからのことはあまり覚えていない。どうでもよかったからだ。ホームルームが終わると、クラスはにぎわいを取り戻し、やはり月宮も例外ではなかった。


「日野くん、何の委員会にしたの?」

「俺は図書委員会」

「あっ、私も同じだ! やったね!」


 それを聞いた途端、俺は目の前が真っ暗になった。最悪だ。委員会までこいつと一緒……? 耐えられない。


「委員会、楽しみだね」

「全くそうは思わない」

「なんでー? 私と一緒だよ?」

「それが嫌なんだよ」

「私のこと、嫌い?」

「ああ、そうだ」

「ひどーい!」


 月宮は頬を膨らます。子どもっぽい仕草だ。こいつとずっと一緒なんて、俺にとっては拷問と同じだ。


「月宮、お前は俺以外の人と友達になれ」

「えー、なんで?」

「それがお前にとっても幸せだからだ。俺とは友達になれない。分かるだろう?」

「分かんない」

「はあ……」


 俺はため息をついた。これからの学校生活、本当に大丈夫なのか……?


「委員会は明後日だね」

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