第18話 こいつもやってんなあ
司祭が叫んだ。
「そんな馬鹿な! マチルダ王女殿下が王女殿下であることを知るのは、ここにいる中で私のほかには十人もいなかった、しかもかん口令をしいていたのだぞ! それを、なぜこんな小娘が……」
カルアはマチルダ王女の足元にひざまずいたまま言った。
「神がそうおっしゃったのです。この方こそ、人間たちの君主となるお方であると」
もちろん、忍法念話の術を使ってそう言えとカルアに俺が指示しているのだ。
後で聞いたが、変装して潜入していたリチェラッテも、マチルダが王女であることまでは知らなかった。ただ、なにか秘密があるらしい、ということは聞きだしていたのだ。
司祭は驚きのあまり、ワナワナと震えている。
おそらく、王女殿下をわざとこの場にいさせて、『神の声を聞いたとかいっても王女の存在にすら気づかなかったではないか』などと仲間内で言って、カルアを偽物として追い出そうとでもしていたのだろう。
ま、実際偽物聖女だけどな。
しかし俺がそんなことを許すわけがないのだ。
アルティーナが言う。
「司祭よ。王族はわれわれ魔族が皆殺しにしたはずだが……?」
「はい。そう思われていました。しかし、第二王子殿下の末の娘様はご母堂の田舎に疎開していてご無事だったのです……。その方こそ、このマチルダ王女。アルティーナ様、どうかこの方のお命だけはお救いを……お願いいたします……」
まさか王女という身分がばれるとは思っていなかったのだろう、司祭はアルティーナに向かってひざまずき頭を下げる。
「ふむ、どうしたもんかのう……」
アルティーナは俺を見る。
俺は言った。
「これも人間の神の導きでしょう。アルティーナ様は魔族の王、つまり魔王となり、マチルダ王女は女王として、そしてこの聖女様は神の声を聴く聖女様として、この世を平和に導くでしょう」
アルティーナはちょっと目を輝かせて、
「この私が魔王……? まさか、そんな……。しかし、父上である魔王様は確かに四十七人いる子供のうち、妾腹の私にはそんなに権限をくれなかったし、たったの千五百の軍勢をあずけただけだったし……そうか……カズヤの力で私にも巡ってくるか……権力の座が……」
さすが魔族、権力欲は強いな。
っていうかいうほど魔王に対する忠誠はないみたいだな、こいつ。
娘のくせにそれでいいのか。魔族は仲間意識が強いと思っていたけど、その範囲は遠くに住んでいる父親には及ばないんだろうか?
アルティーナが父親たる魔王に無限の忠誠を誓っているわけでもない理由はまあ後でわかるんだが、魔族ってやつの習性は人間の常識で考えない方がいいようだった。
まあいい、魔族と王族と教会のトップ、そのさらに頂点に俺がたち、この世界を俺の手中に収めてやる。
……しかし、この俺が名実ともに頂点にたつためにはこいつら傀儡が俺に忠誠を誓うだけの名目が必要だよな。
実権だけ握るってのもいいが、やはり見た目上も俺がトップにたってちやほやされたほうが気持ちいいからな。
それにはまず、地盤固めだ。
俺は念話を使ってカルアに指示を送り、カルアにこういわせた。
「司祭さま、私は神の声を聞いております。東の町、西の町にも使いを送り、神と王女殿下への忠誠を誓わせ教会騎士団を再編成しましょう。北の町の司祭は悪い奴なのでやっつけよ、神の前に引きずり出して裁かせるのだと神はおっしゃっています。魔族が人間の女を献上するように言っている、と人間たちを騙して女子を連れ去り、実際には魔族から金品をもらっていたような聖職者は極刑にすべし、と神はおっしゃっています」
南の町の司祭は顔を真っ青にして、
「さ、さようですか……」
とか言っている。こいつもやってんなあ。
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