「言いんちゃい、言いんちゃい。聞いたげるよ、なんぼでも」

 決められた手順で「何か」をすると「何か」が起きる──都市伝説の定番ですが、本作においては「何か」とはビールを用意することであり、「何か」とは「妖精」が現れて悩み事を解決してくれる! というものです。ほど良い緩さと、「なんで?」感が組み合わさって気になる導入ではないでしょうか。しかも、この妖精さんは広島弁を操るどうみてもホステスな「ママさん」でもあるのですから。

 本作は、妖精さんことあやかママに悩みを打ち明ける人たちの人生を描いたオムニバス形式のドラマです。登場する人たちの悩みはどれも等身大のもので、しかも必ずしも「正く」はないところに共感が持てます。
 良くないのは分かっているけれど、大きな声では言えないけれど、でも──という悩みに優しくおおらかに頷いてくれる「あやかママ」の明るい言葉は読者にとっても癒しになると思います。レビューのタイトルに掲げた台詞で促してくれるあやかママ、広島弁の味と併せて何もかも受け止めてくれそうな懐深さが出ていますよね?

 また、本レビュー執筆時のキャッチコピー「最後の最後、このラストシーンを、いつ予想できましたか?」から窺える通り、本作は構成にも仕掛けがあります。ちなみに私は最後の最後までまったく気付いていませんでした! 読み返すと「そういえば……!」という箇所がたくさん見つかるので、何度も楽しめる作品でもあります。

 さらに、本作はご当地ものとしての魅力もたっぷりです。広島弁は妖精さんことあやかママのおおらかな雰囲気にもぴったりですし、街の描写から伝わるご当地の空気感にはリアリティがあって、実際に広島を訪れた気分になれました。「広島風お好み焼き」についての言及は、他県出身者にとっては「本当にこだわるんだ……!」という新鮮な驚きと面白さがありました。

 とても楽しく、そして心温まる作品です。お勧めです!

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