第8話 私の寮、センドパトラ

南校舎へつくと、一番右の大扉に「センドパトラ寮」と書かれたプレートがかかっている。

大扉は独りでに開き、寮長を先頭に中へ踏み込む。



中は植物園のようで、見慣れない植物ばかりだ。

この寮の信念の元となったヒーローである魔法士は確か、植物学者だったか……いや、か?


ええと、どうだったか。

寮のメインルーム入口に石碑が置いてある。人物についての説明書きのようだ。

さらーっと軽く読む。植物学者としての知識を生かし街の人々に貢献したミーガン・ヒューイット、その様がまるで魔女のようだと言われていたが、れっきとした非魔法士……


そうだった。

私はあまりこの学校について下調べをしていない。急に入学を決めたのもあるのだが、何しろ、私はあまり歴史が好きではないのだ。

寮の信念の元となった魔法士ら(ミーガンは例外で非魔法士だ。)の名前も、功績も殆ど知らない。


何故かって?

行き過ぎた人嫌いさ。特にミドルスクールでは人嫌いが興じて

「全く知らない他人の人生を覚える時間が勿体無い」と世界史はノー勉だった。


今は過去から学ぶのも大切だと思っている。自分の平穏な日々も、それに貢献した人々がいるのだ。

人は基本嫌いだがな!

それでも、警戒はしつつもミドルスクールのようにはならないようにしないと。ルカやケセラは大丈夫そうだし。


ケビン寮長が立ち止まり私達の方を振り返る。


「ここがメインルームだ。皆で勉強するも良し、談笑するも良し。僕か副寮長に届け出を出して許可を貰ったら有志でイベントを催すこともできるよ。何かやりたいことがあったら是非申し出てくれ。」


長方形の白くざらざらとした質感のタイル床に、木の材質の大机と丸太椅子。複数の植木鉢にはブルーベリーやイチゴ、様々な花が育てられている。

ハンモックや本棚も置いてあり、寮生の憩いの場なのだろう。

窓からは自然の光が差し込み、緑溢れとても居心地が良さそうな場所だ。


「ん?騒がしーな。終わったぁ~~?」


ハンモックに誰か寝ていたようだ。アイマスクを上にずらし、此方に声をかける彼は、目を擦り大きな欠伸をしている。


「ああ、ジェイク。起きたか。全く……君も来れば良かったのに。昼食食べたのかい?」


「いやぁ?お腹は空いたけど、別にどうでもいーや」


「そういうわけにもいかないだろう。後で売店にでも行って買ってくるよ」


「さっすが寮長。面倒見良いねえ。」


寮生の誰だという目つきを察した寮長は、皆に説明する。


「ああ、こいつはジェイク。こう見えて……はぁ。センドパトラ寮の副寮長だ。」



式典にも出席せず食生活の宜しくない、こんな人が副寮長。何を基準に選んだんだ?

皆の顔にそう書いてある。勿論私もだ。




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