第20話

《現在》


 勇者召喚に巻き込まれた日のこと。転生前に白い空間で創世神レジリオと話したこと。すべてを語り終え、話を始める前にクラウスが入れてくれていた紅茶にそっと手を伸ばす。すっかり冷めてしまっていたが、長話と緊張で乾ききった喉にはちょうど良かった。ゆっくりと紅茶を飲み干すまでの間、信じてくれないかもしれないという不安で顔を上げられなかった。小さく深呼吸し、意を決して顔を上げた私の視界に写ったクラウスの様子に、思わず頬が引きつった。前世の記憶を思い出す前の私が物心付く前から、ずっと一緒にいてくれたからこそ分かる。これは間違いなく怒り狂っている。仄暗い笑顔を浮かべ、ナイフを磨きながら小さな声で何かを呟いている。聞き取ろうと耳を澄ませると『勇者殺す』と繰り返し呟いていた。

 

 孤児でボロボロになって路地裏で倒れていた彼を、言葉を話し始めたばかりの私が見つけて助けろと言って聞かなかったらしい。そのうえ、彼が元気になってからもそばを離れず、ずっと一緒と言い続けるものだから、両親が根負けして私の従者として迎え入れることを決めたらしい。武器を扱う才もあったため、護衛も兼ねてということで、暗殺術も教え込まれている。

 

 そんな、私に心からの忠誠心を向けてくれるクラウスなら絶対殺る。間違いなく。そう思って、これ以上危険な思考を始める前にとクラウスに声を掛けた。


「…ク…クラウス?」


「レイヒ様…勇者を殺してきていいですか?」


「いいわけ無いだろう!ナイフを仕舞え!」


その後、満面の笑みを浮かべて勇者殺害宣言をした従者をなだめるのに30分ほどかかってしまった。

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