第6話

空がこんなにも私を好いているのには理由がある。きっかけ、と言った方がしっくりくるかもしれない。ありきたりなものだ。

空と私の両親は仲が良く、物心がつく頃には隣に空がいた。

小学校に通い始めると、私と空は必然的に一緒に登校するようになった。空が私の家に着て、それから二人で歩く。両親もそれはそれは微笑ましそうにしていた。

空の顔はそのときから既に整っており、将来はきっとイケメンになりどこぞのアイドルグループなんかにもちょちょいと入れそうな顔になるだろう、という予想はついていた。そう思っていたのはもちろん私だけではない。クラスメイトの女の子たちもそう思っただろう。


小学校一年生の頃、空はいじめにあった。いじめという言葉はあまり合わないが、それなりにいじめられていた。小学一年生のいじめなんてたかが知れている、女の子たちのちょっかい程度だ。しかし空が「いじめられた」と悲しそうにするくらいにはいじめられていた。

当時、空は私の後を歩くような子供だった。褒められると照れて私の後ろに隠れる、シャイな男の子。対して私は我儘なお姫様状態。思い出したくもない黒歴史の数々。そんな自己中心的だった私はもちろん、空がいじめられているのを見て「私の空をいじめるなんて、どういうことなの!?」と激怒し、クラスメイトの女の子たちに立ちはだかった。女の子に「空くんは優ちゃんのじゃないでしょ!?」と言われても、男の子に「お前らフーフかよ!」とからかわれても、空をいじめる奴がいる限り私はそいつに敵意を向けた。このことで空は私を今まで以上に好くようになった。


「懐かしいな、この写真」


空は当時の、小学一年生のときの写真を指さし、私に見せた。


「あぁ、空、そのときからモテてたよね」

「そうなんだよねぇ、いやぁ、好きな子程いじめたいっていう気持ちが理解できなくて、ただの悪意にしか感じられなかったんだよねぇ」


しみじみと語る空の顔は、当時の記憶を思い返しているようだった。


「写真を貼りだしたのも、この頃だったなぁ」

「ふうん」

「優ちゃんとずっと一緒にいたい!って、ペタペタ貼ったんだよね。気づけばいつのまにか、こんな量に」


あはは、と楽しそうに笑う。

あの頃は私もまだ空にギリギリ釣り合う顔をしていたのに。


「そういえば、この前クラスメイトにいた子からメールがきたんだよね」

「へえ」

「誰だったかな...ほら、土田さん?坪田さん?」

「........秋田さん?」

「あ、そうそう、アキタさん。このときしか関わったことなかったのに、急にメールとかくるからさぁ。どこからアドレス入手してきたんだろうね」


ふうん、と相槌を打つが、私も秋田さんをあまり覚えていない。

クラスも、一回しか一緒にならなかったし。中学は違ったような気がする。


「気持ち悪いよね。私のこと覚えてる?っていう文章から始まって、久しぶりに会おうってことになったんだよ。何でそうなるのかな。俺がアキタさんに会ってどうすんの。何を話すの。俺、アキタさんに興味ないんだよね」


ハッ、と鼻で秋田さんを嘲笑う。


「そう言えばいいじゃん」

「んー、でも会う約束したんだよね」

「は?興味ないんじゃないの?」

「まあ、そうなんだけど。アキタさんに会うことで興味あることもあるの」

「意味が分からない」


ベッドに頭を預けて、空をじとっと睨む。

興味ないんじゃなかったの。興味ないならどうして会うの。会って何するの。

そう問い詰めてやりたいが、言ってもどうせ「秘密」と返されるのが分かっている。

空が秋田さんに会うのが楽しみなのも、分かっている。にこにこと、顔に出すぎだ。

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