第31話 『苦しめてごめん・・』

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「今更、何調子いいこと言ってんの?


 ヤルことやっといてセクハラで訴えることもできんのよ。


 部下に手を出したなんてわかったら知れたらどうなるかしらね」

 




 あって無いような部下という組織上だけの関係性まで


わざわざ口にしてくる根米菜々緒とのことは、今まで何かと話を


聞いてくれる少しお節介な同僚としか考えてなかったのに、突然


牙を剥いてくるという現実を見せつけられ神尾は根米の囁きに


いつしか洗脳されて友里にしてきたことがどれほど身勝手で


酷い仕打ちだったかを……同時に悟った。





 まさにこの時神尾の洗脳が溶けた瞬間だった。



「何を……言い出すんだ」



「あ~、ごめんなさい。そうじゃなかったわね。

 

 私たち愛し合ってたからそーいうこといたしたんだったわね、

神尾くん。 


 神尾くんったらぁ、私が友里さんのこと口にしたから

ちょっと取り乱しただけよね。


 分かってるぅ~、ごめんごめん。 

 

 もう友里さんのことも子供のことも言・わ・な・い。約束」



 目の前の女は普通に笑顔で小指を差し出してきた。




 俺の背筋がゾクっと震えた。


 事務所と店舗の間にある敷地で話していた為『仕事に戻る』と

彼女から離れその場を後にすると、背後から言葉が投げられた。




「お疲れ様です。無理しないでね、じゃあまた明日……」



 根米の投げてきた台詞にまたもや神尾は反応して背筋が凍るのだった。



『おぞましい』という単語が降ってきた。



 俺は今のいままで根米のことは少しお節介な世話焼き人間くらいの

認識しかなく、おぞましい妖怪のような人間だと判別した今では

吐き気を催すしかない。

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