3 なんでですか?
宮越くんは、三ヶ月前に僕と同じ派遣会社からやってきた後輩だ。
日焼けした色黒い肌に、百八十センチ超えの長身かつ筋肉質な逞しい体を持つ好青年で、仕事の覚えも早く、社員として引き抜かれるんじゃないかと噂されるほどのデキる男。
今は別々の班に所属しているが、入社初日に僕が工場を案内してあげたため、いまでも時々挨拶を交わしてくれる。社交的な宮越くんなら、僕を会話に入れてくれるかもしれない。
よし、行くぞ。
僕は深呼吸をし、弁当を持って席を立つと、ゆっくり宮越くんに近づいていった。
緊張のあまり、心臓がはちきれんばかりに鼓動を打っている。
「あの」
僕が声をかけると、宮越くんは顔をあげた。
「北村先輩。お疲れ様です」
「う、うん。おつかれ……」
「どうかしたんですか?」
会話に気づいた同僚たちが、興味深そうに視線を飛ばしてくるのがわかる。
僕はすぅっと息を吸い込み、頭の中で何度も練習したセリフを言った。
「ぼっ、僕も、ここに座っていい、かな?」
「えっ? ……なんでですか?」
バクッと心臓が飛び上がった。
なんで?
なんでって……理由がなきゃ、だめなのか?
「なにかありました?」
「…………そういうわけじゃないんだけど」
僕を見上げる宮越くんの表情が曇っていく。
最悪だ。
まさか断られるなんて予想もしていなかった。ちらっと横目で同僚たちを見やると、彼らは面白そうに含み笑いを浮かべていた。僕が玉砕したのを見て楽しんでいるみたいだ。
首筋に冷たい汗が滲む。
「いや、その。ごめん、僕、空気読めないから」
「はあ」
「僕みたいなやつが、何を言ってんだって感じだよね。図々しかったっていうか」
「いや。オレのほうこそ、なんかすみません。先輩とあんまり絡んだことなかったから、ちょっとびっくりしたんです」
「そっか。そう、だよね」
重苦しい沈黙がのしかかる。
これ以上言い訳したところで虚しいだけだ。恥ずかしさと惨めさで、消えたくなった。
自分がそこまで嫌われている存在だったなんて。ぎゅっと、弁当を持つ手に力が入る。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
「でも、せっかくですし、座ってくださ……」
「おい、北村」
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