拾伍話 シュウソク

時は遡り、所定のポイントへと向かう…うつけ者と博士の会話。


「なあ…博士。」


「…?どうしたんだい、改まって。」


「白女…楓だったか。ついさっき思い出してよ……実は俺様は知ってたんだ。」


「へえ。何処かで会った事があるとか?」


「…まあな。だから分かるんだよ。」


首を傾げる博士にうつけ者は言った。


「アイツは…あの兄貴の狙撃を避けた奴なんだぜ。その雰囲気が…覇気ってーの?がほぼ感じられねえんだよ。」


それを聞いた博士は唐突に拍手をした。


「…成程。よく気づけたね……大した者だ。」


「あ?どういう事だよ??…っテメェまさか、最初から分かってたのか?」


「いや、そんな事はないよ…前に会話をした時にね…聞いたんだ。」


博士は楓が言っていた事を思い出していた。


『分かっています。私の目的…それはーー。』


ーー死に直す事です。


「楓さんはこのゲームにログインした時点で既に死んでたんだって。」



『死ぬ事は何となく分かっていましたけど…ログインしたその時、声が聞こえて…いつの間にかこのゲームの世界にいました。』



「死んで…チッ、やっぱそうなのかよ。」


「これは仮説だけど…人工知能『蒲公英』が類い稀なる才能を秘めた楓さんという存在を欲した為、特例として復活させた可能性がある。」


博士は目を輝かせ、熱弁する。


「もしも、この仮説が正しいのなら…上手くいけば人類にとっての理想の一つである『不老不死』が身近になるという事なんだよ!現在ではないゲームの世界でなら、人間は無限に年も取らずに永遠と生き続けられ…あうっ!」

「うるせえよ。」


頭をボリボリと掻きながら、博士を蹴って転ばせた。


「飽きたらよ…キャハ。他の話しようぜ?」


「……君から話を振った癖に。」


「あ?何か言ったか、博士。」


その態度にため息をつきながら立ち上がって、また歩き始めた。


「……前にテメェは、このゲームのシステムを解析したいって言ってたよな?」


「うーん。まあそうだね。今も水面下でやっている最中だ。」


「…解析だけじゃねえんだろ?」


「……!」


痛い所を突かれ黙り込む博士にうつけ者は続けてこう言った。


「その表情…ヘッ。やっぱりかよ。俺様はゲームのシステムとか全く知らねえけどよ…俺様の知ってる博士なら、もっと先の事を考えながら本命の計画を練ってやがるだろうからなぁ。」


「へ、へえ……気づいていたのか。」


「まあな。ヒヒ…俺様はこう見えて頭脳派だからな!!」


「………はぁ。君になら伝えてもいいかな。」


博士は不意に足を止めて、うつけ者を真剣な目で見つめる。


「私の真の目的は、このゲームのシステムの…改変だ。」


「改変…ってーと?」


「簡単に言えば、ルールを書き換えると言い換えてもいい。」


うつけ者が関心した様に腕を組んだ。


「……凄えなぁ…博士は。」


「えっ…私を馬鹿にしないのかい?」


「しねえよ…博士がやるって言ってんなら、きっと可能な事なんだろ……で、どんなルールに書き換えるんだ?」


「……ってない。」


「声が小さくて聞こえねー。もう一回言いやがれ!!!」


恥ずかしそうに博士は頬を赤らめた。


「実はまだ…決まって、ないんだ。」

「……は?」


うつけ者は一瞬だけ硬直したが、すぐに大声で笑い出し、博士の肩を何度も叩く。


「ギャハハハハ!!色々考えてんのによ、キャハ…ここ最近で一番笑えたぜ。面白すぎるだろ。」

「〜〜っ。」


散々それを笑った後、俯いて少し涙目の博士に言った。


「俺様が特別にアドバイスをしてやるよ。」


「…アドバイス……君が?私に??」


「ケッ、悪いかよ?」


「……いや、続けてくれ。」


「そういうのはよ、こう…パッと閃いたのをやりゃあいいんだよ……分かったか?」


「……ふ。」


うつけ者を見つめる。


「君の言いたい事が全然見えてこないな。」


「…は?だからこう、パッとだな、」


「しかも説明の仕方も下手くそだ。」


「っ…オイ。喧嘩売ってんのか?博士。」


イラつくうつけ者に博士は薄く微笑む。


「…でも、うん……参考にさせてもらうとするよ。」

「ハッ、そうかよ。」


それ以降、二人は他愛のない雑談をしながら所定のポイントへと向かって行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【設定変更:ゲームルールその六のペナルティのダメージ設定を最大値かつ、ゲームマスターにルールその六を適用。そしてゲームマスター全権限を谷口菊へと譲渡、ゲームマスターが死んだ時点でゲームクリアになる様に再設定。】


(やれやれ、結局決まんなかったし…あの男の意見を参考にしてみたけど。)


……これで良かったのかな。


(結末が見れないのは残念だけど……うん。)


20年。天才故に酷くつまらなく面白味もなかった人生だったけれど……



——このゲームは楽しかっ…た……な。



世界が光に包まれ崩壊していくのを二人はホテルの屋上から見下ろす。


「オリジナルは死んだか。」

「そうだね。私達はどうすればいいかな?」


私と瓜二つの少女の質問にため息混じりに答えた。


「どうにもならないよ。この世界の情報はあの嘘つきに送った……私達の役目はここまでだ。分身体なんだからそれくらい分かるだろ?」


「それはそうだけど…」


「まさか…死ぬのが怖いのかい?」


「いや、それが、めちゃくちゃ気になるんだよ。寧ろワクワクしているね。」


同じ表情で二人は笑い合う。


「結局、生還者は…二人だけか。」


「えっ!?それしかいないの?」


「オーバーなリアクションを取るなよ、知ってる癖にわざとらしい…逆に多いくらいだ。」


「それもそっか。そういえばさ、あれの対抗策としてこの世界の裏にある図書館に私を配置したけど…反応がなくなってるから…無意味だったのかな?」


「……いや、そうでもなかったかもね。」


「…?」


とうとうホテルが崩れ、二人は下へと落ちる。


「あのさ!私、バンジージャンプってこんな感じなのかな?」

「…紐がないから、どちらかと言えば頭身自殺に近いな。」


そんなくだらない会話を繰り広げながら、落ちる直前に光に飲まれ消滅した。



——それをもって、デスゲームは閉幕した。

























































































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