鵺斬伝

木々暦

序 海月の骨

 ぬえとは即ち、海月くらげの骨である。

 海月には骨がない。

 つまり、そんなものは存在しない。

 世には魔物がいる。

 蔓延はびこっている。

 闊歩かっぽしている。

 跋扈ばっこしている。

 その姿は、あるいは猿であり、あるいは虎であり、あるいはむじなであり、またあるいはくちなわである。

 魔物とは、獣である。

 畜生である。

 である。

 人のように言葉を持たぬ獣たちは、長く生きればいずれ魔物となる。

 人のように名を持たぬ獣たちは、多くを喰らえばいずれ魔物となる。

 魔物とは、獣なのである。

 その成れの果てである。

 故に、魔物とはすべからく獣の姿を持つ。

 猿の魔物がおり、虎の魔物がおり、猪の魔物がおり、むじなの魔物がおり、また蛇の魔物がいる。

 だが鵺はいない。

 確かに、鵺のかおは猿である。

 その四肢は虎で、胴はむじな、尾は蛇である。

 だが、猿の面に虎の四肢を持ち、むじなの胴から蛇の尾を生やした獣など、存在しない。

 つぎはぎの魔物など、存在しない。

 そのような奇怪なナマモノなど、存在してはならない。

 故に、鵺とは海月の骨なのだ。

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