第20話 異世界応対課と、校下の不審者
異世界転生課とはデザインが異なった羽衣を目にした金髪新神。腰の帯など、自分たちと違う。ブロンディは、その和服のような羽衣の意味はのちに知った。
つまりはここの住民、いや住んでいる神が、異世界転生課とは違うとのことだった。
制服、いや組織が違う。
それが異世界応対課。
水色髪の女神はそんな存在であり、異世界転生の真っ最中、応対を見ていた二人の前に現れて―――クララとブロンディに対し、御用聞きとして出てきたのであろうか。
「前のところから来た『S級』がいつまでも詰まってるのよねえ———早く何とかしてもらえると助かるのだけれど?」
そんなことを言ってきた。黒瀬をすぐ思い出すブロンディ。クララがすかさず、話し続けた。
「……冠位長も対策しているわ。そもそも送れって言っていたのはそっちでしょ! いつも、いっつも!」
クララが腕組む。
「心配しなくても見なさいよ、新神が来たから、これから私たちの仕事、ペースは落ちるわよ」
前のところのS級、というのがブロンディには謎だった―――S級なら、黒瀬ならなんとかしようとしているところである。いずれはベテランが退治するだろう。それは時間の問題だと、本心で思っていた。
異世界転生を望まないなんて、そんなことは一時的な、心の迷いに決まっている。
いずれはわかってくれるでしょう―――。
ブロンディは知らなかったが、黒瀬に勇みよく突っかかっていて派手にやられてからずっとこの調子であった。
イライラが止まらない。
本人は表に出していないつもりではあるが、新神にすらわかるほど、漏れている。
周りからは性質がきついだけにしか見えず、厄介。
ブロンディは圧力を感じているが、彼女も内心は困り果てているところがある。
クララだけに限らず、異世界転生に『失敗』するケースはある。実は多くの女神が経験している。
しかし、今に見ていろという向上心はある。
カリヤに認められたい。
黒瀬がイレギュラーなだけであり……。
転生抵抗度S級だから、という理由で諦める女神は多い。他を転生させればよい、と―――クララはしかし、どんな転生であれ、人間から逃げ出すのを良しとしない性格であった。
たとえ撃退されようが。
私たちは神なのよ、と。
それに、いつかは問題を片付けなければなるまい。
「クララ、あなたのところはどうなの」
「こっちだって大変よ、問題だわ―――!」
水色女神を睨みつつ、手を上げてブロンディを指さす。
「彼女、新神なのよ」
「ああ、そうなのね、問題が色々———教えなきゃならないことが色々」
む、と頬を膨らますブロンディ。
馬鹿にされている―――私はまだ何も知らないだけだというのにーーー。
この課に来てから日が浅いのは事実であるが。
ちい、自分が一番の新入りなのは理解しているけど、先輩というのは、新入りを見下して、そして何か得があったりするのだろうか?
ただただ、不思議である。
はあ、とダウナーになる水色髪。
「困っちゃってるーの。 どうしてこうなった―――でも役割なのだから、仕方がないじゃない、転生は」
「感服いたしますわ」
ブロンディが笑みを作る。
「———先輩方が、役割を果たしている―――世界を投げ出さずに頑張っていらっしゃる」
「あら、そんな言い方もできるのね」
意外性を感じたのか、眉をあげる別課の女神。
異世界転生がある以上、誰かがやらなくてはならない。
長い歴史があるのだった―――そして、人間には任せることが出来ない。
何時だって神の双肩にかかっている。
「とはいえすごい時に来たわね新神さん―――? 今の
「……そうなんですの」
目を丸くするブロンディ。
異世界転生には忙しい時とそうでない時もあるらしい、と初めて知った
そりゃあ物事には時期というものがあるのだろうが―――。
新神としては、『素晴らしい世界』に最速最短でいけることは、やはり素晴らしいと信じる。
人間の素晴らしい道———。
人類を、責め
そんな彼女であった―――現時点では。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ええーと、不審者が出没しました」
天瀬井高校の二年生学級。
黒瀬の担任が事務的に言った。
事務的で有名な教諭である、テンションの低い先生として日々を立ち回っている。
「特徴はえーとですね」
プリントを読み上げるジト目教員。
「一、電柱の影に隠れていた。その二、我が校の近辺で目撃されている。その三、サングラスをかけて、似合わない、奇妙な着こなしをしていた。となっています。ストーカーなどの恐れがありますので皆さん近寄らないように」
「先生、それだけですか?誰か被害には?」
長尾くんが問いかける。
「今のところはないですね―――しかし通報した人の情報もあって、騒ぎ立てたのが〝赤パーマレスラー〟なので、大したことはないかと思われます」
教室はざわついた。
この近辺では有名人であったのだ。
元、女流プロレスラーだった頃に某ドームで猛威を振るっていた女性、との情報が、まことしやかに囁かれている。
黒瀬もレスラーを一度目にした、くらいはあるが、確かにイカつい、がっしりとした体格であった。
関わったことはないが。
「不審者が不審者通報ってぇ、そんな」
クラスが、笑いを誘い誘われ、ワイワイガヤガヤ。
騒然状態になる。困惑と笑み。
「なんかそういうやつって集まってくんのかな」
「あーみんな静かにぃ! 先生はねえ、あの人、ちょっとおせっかい焼きなだけで実はいい人なんじゃないかって思ってるからァ!」
みんなも犯罪に巻き込まれないように! トラブル気をつけてねー解散!と、担任は話を飛ばす、吹っ飛ばすように言った。
「不審者だってよぉー?」
「ああ……不審者か。一般人にもなれず、かといって悪目立ちするから忍者にもなれなかった、悲しき存在の事だろ……」
聞いていたってば、と黒瀬は応対する。
そういう不思議な生き物はいるのです、この世界のどこかに。
表情をかえずに応対する黒瀬。
別に感情はそれほど動かなかった。
「忍者?」
半笑いの茂撫山や縁川が意識の外で笑い飛ばした。
「もうこれ以上やること増やされても、どうしようもないぜ」
イカれた連中の相手は、そこそこに慣れているのだが……イカれた連中、怒れた連中。
俺、リアクションとれないよ?と黒瀬は鈴蘭の方を眺めた。
鈴蘭は鈴蘭で、女子陣と少し視線を送っているようだ。
あー、俺とは、無視ではないが目が合わず終了。
ともかく神々を相手にしながら他の連中も来るとは、想像もしたくない。今は命を拾っているが、そのうち死神でも来たらどうするのだろうか。
そんなことまで考えてしまう。死神か―――もう女神は来ているし、そんなことも有り得なくもなくなってきた。
言ってしまえば女神が死神なのだ。
そうだろそうに違いない―――正体?
おっと、教室でふと、近づいてしまったか?
真実に。……とはいえ、元よりいかれている連中、奴らが嘘をついている可能性は十分にある。
何もかも想像、妄想に過ぎないが―――。
そんなこんなでホームルームおわり。本日の帰り際の挨拶会は過ぎ去っていく。
これで話が終わればよかった。
ただ、黒瀬が校門から出て、警戒心を絶やさずに歩いて。
帰宅し、女神が出現することもなく自宅を視野に捕えることが出来た頃に、その男はやってきた。
電柱の影から現れる。男。
「———やあ、黒瀬カゲヒサくん―――で、合っているよね?」
サングラス。茶色を基調とした、似合わない着こなし。
なるほど目立つな―――、と黒瀬は感じた。
男自体は中肉中背なのだろうが、体型が不自然になるほどの、重ね着といえるのだろうか、これは。
目立つために考えてこういう風にしているのだろうか、との疑念が沸いた。
この男、悪目立ちするのだろうか―――それとも悪目立ち、したいのだろうか。
現時点では判断材料が少ない。
不審者と関わりたくないな、と細い目をさらに細めた黒瀬だった。
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