第3話 黒瀬カゲヒサと異世界転生 2


 クララ・クラウディアは、女神協会、異世界転生課に所属する女神だった。

 異世界転生課———読んで字のごとく、人を異世界にいざなうための、人類を異世界に招待するための、存在。

完全に異世界に特化した部署である。


 本日の『標的』ターゲットは、その転生抵抗度がS級に相当する少年―――黒瀬カゲヒサ。

 それを見下ろす彼女は、それまでの噂とたがわないの実力を目の当たりにした。瞳に焼き付けている。


 住宅地で、決して広い道ではない。にもかかわらず高速走行をするトラック―――彼はそれを一台どころか、五台、六台と躱していた。


 役目を果たせなかった車輛がまた一台、電柱に、ぶつかる―――。クララの隣で電線が大縄跳びのように波打っていった。少年は人間離れした動きを続けている。

 普通じゃない、野生の動物並みか!

 その高い実力でもって、をしている。


「この世に執着しているわね、大したものよ」


 彼女の視界眼下で走る少年。

 普通の日本人のように思えるが、その実相じっそうは異端であった。女神協会が問題視している対象の一人である。


 闇に生きる一族。

 忍び、隠れてきた血統。


 代々将軍家に仕えていた家系———忍者の末裔であるという、パーソナリティーを持つ。

 転生用のトラックの度重なる走行。その連続を、余裕をもって躱し続けている。

けつまろびつ―――のようにも見えるが、体操選手のごとき、狙いすましたものである。

 美しさすらあった、それがかんに障る、女神の癇に、障る


ただ者ではないと、他の女神たちから言われていたが―――、実際に目にしたクララは思わず震えている。

 強烈だった。


「くっ……通常の車輌走行こうげきでは転生が困難なようね……ならばッ!!!」


 目を見開き、狂気の笑みを浮かべる女神。

 ただ者ではない少年だと聞いていたが、この少年を異世界転生させることで、自分は『評価』を得られる―――そうに違いない!

 自分はただの女神ではない! 





 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





 黒瀬は疑問を覚えた。

 それまで矢鱈めたらに突っ込んできた複数台、トラックが停止している。しかしタイヤのみが激しく回転していた。


 諦めたか?———いや、これは!

 トラックを覆うように、煙が巻き上がっていく。公道で発生するというには多すぎる粉塵だ。どこからこれほどの量が発生したのか―――、トラックの体積を大きく上回っている。


ケムリ……!」


「黒瀬カゲヒサ! 正確には雲よッ!」


 電柱の上で叫ぶ以前に、黒瀬の視線は空中の女をとらえていた。

 今までに出会った者たちは高飛車な性格だった。基本的に、高い位置から見下ろしている。

 多分に漏れず、この女神もそうらしい。


「発生した雲によりあなたの回避は不可能になる!見えない大量の車輌走行こうげきが、あなたを異世界にいざなうわ!」


〝轜雲じうん〟———クララ・クラウディア。

 少年がいま対峙するのは神。

 人知を超える存在なのである。



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