第5話 


「そっか、あの日に、柴原にも、あったのか」


いたな?


職員室に。


あいつがいなかったら、


ー俺は、あの時、どうしたんだろ?


あの日、あの瞬間、なんで、


ー神城明日菜だけ、見つけられたんだろ。


ホタルみたいに、雨降りの翌日に、ひっそりと帰ってくる俺の傘。


落とし物いれに、まぎれこむ、俺の傘。


アイツは、俺のこと、気づいてるのかな?


ーいや、気づいてるよなあ。


傘には。


俺には気づいてないよな?


いや、まてよ?


神城は、そんなに鈍そうに、見えなかったぞ?


俺はじっと傘を見つめる。ただの安物の折りたたみ傘で、


ー俺は、あまり傘を使わない。


たぶん、傘って、わかれるよなあ。


少しの雨で、短距離で、


ー傘をつかう人。


ー使わない人。


俺は、少しの雨や短い距離なら、わりと使わない。


土砂降りなら、考えるけど。べつに走ったら濡れないとも、思ってない。


むしろ、なんとなく、走ったら、服が重くなる気がする。


ーけど、走る?かなあ?


たまに家族で出かけると、雨ふりの駐車場から、店に行く時なんかで、


傘を持たない派の、俺と親父。


傘をさす派の、母親と兄貴にわかれる。


兄貴は、きちんと傘をさす。


ー洗濯する母さんのコトを考えろよ?それに、風邪ひいたらどうする気だ?


って、毎回、雨降りでも遊ぶ俺を、探しにきてる。


ー来てくれる。


なんで、学年は一個しか違わないのに、兄貴は、あんなにしっかりしてるんだろ?


兄貴は、頭もいいし、わりと顔もいいらしい。


俺と兄貴は、兄弟だから、親戚からは、似てると言われるけど、


ー?


兄貴は、異世界人からモテるらしい。バレンタインのチョコなんかをもらう。


ー?


なんかいま、俺は、羨ましいと思った?


ー?


一度も異世界交流を、夢みたこともないのに?


ー?


首を傾げていたら、


「傘は、あったのか?村上?」


黄原がきいてきた。


「ああ。あった。なあ?黄原?」


「なんだよ?今日は、晴れだぞ?明日も晴れだぞ?」


「いや、天気じゃなくてー。なんで、いま、舌打ちしたんだ?」


「なんでは、俺だよ。なんで、柴原は、お前のことを、初対面で、あんなにわかるんだよ?」


ガシガシと髪をかいて黄原が、苛立たしそうに俺を見る、


そういえば、小学時代は、短髪だったのに、中学になってのびたなあ。


なんか変な匂いの整髪料する時あるし?


「お前は、そういう時だけ、声に出すから、ムダに敵をふやすんだぞ?」


「そうなのか?」


「そうだよ、天然に、ヒトを苛立たせるのは、お前の才能だぞ?ある意味」


「…天然記念物といえばさー」


話しかけたら、黄原が顔をしかめて、右手を、左右にふった。


「あー、俺には、その話は、たぶん理解でないから?というか、悪口をいわれたんだから、反論しろよ?」


たまに黄原は、兄貴と同じことをいう。


だけど、俺には、よくわからない。


「悪口をいわれたか?」


黄原が?俺に?


いま?


俺には、よく、わからない。


けど、たしかにわかるのは、


ー俺の存在は、周囲を、よく苛立たせる。


もう、わかりきってる。


というか、俺からみたら、


ーいつだって、まわりは、意味なく怒ってる、


人間って、なにかに愚痴らないと、話せないのかなあ?


とくに、母親と兄貴の会話は、いつも、俺や親父に対する愚痴だし?


あっ、愚痴は、怒りじゃないのか、


ー?


不平不満は、怒りじゃないのか?


俺は、首を傾げる。


たぶん、怒りじゃない。


だけど、たまりに、たまったら?


ー大爆発。


は、みてれば、わかる。


だから、ガス抜きかあ、


母親がよくつかう、たまには、


ー息抜き。


ーガス抜き。


ーサッカーボールは、空気抜き。


たしかに、破裂は、しない。


俺は、サッカーボールに、空気をガンガン入れまくるのが、大好きた。


まじめに、ガンガン空気を入れまくる。


たまに糸が裂けて、下のゴムがでてくる。


空気を抜いたら、元に戻る。


ー場合もある。


ゴムが変形すると難しい。


親父の息抜きは、なんだろう?


母親と兄貴は、あるいみあの2人の会話で、


ーガス抜きをしてる。


なら、親父も誰かでガス抜きしてるのか?


ーあんまり、親父が外で母親や兄貴を、悪く言うとも思えない。


親父が話イメージがない。親父は、いつも淡々と毎日を過ごしているように、みえる。


俺や兄貴にも、あまり口うるさくない。


兄貴は、関心がないだけだ。あっても、お前にだけだって言う。


ー俺より兄貴を、気にかけてるように、俺には、みえるけど?


ただ、よくわからない。


ただ、親父がいなくなったら、


ー金には、こまるよなあ?


って、思う。


あくまでうちの場合だけだけど。


南九州の片田舎では、就職があまりない。過疎化が進む理由にもなってる。


地元に残りたくても、職がない。


たまに、教師たちがそう言う。


ーだから、勉強しろよ?


って言うけど。


だから、の前がよくわからない。俺には、いつだって、


ー?


な、この世界を、


ー空色の蛍光ペンが、なんか、かえた?


あいつの説明は、わかりやすい


ー視覚。


だったよなあ。


この世界の不思議な空気。光。


俺は手元の傘をみる。


ースマホや百均がべんりだよな。


たまに作って、また分解して、また作るけど。


あの空箱の中で、ホタルは、いたかな?


ってぼんやり考えていた,


まっくろに塗り潰すあの箱に、


ー空色の光は、あったかなあ?


って思ってた。

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