リベンジ

 一条が家に帰ると、妹のあかねが出迎えてくれた。


「お兄ちゃん、おかえりー」

「ただいま」


 一条が挨拶を返すと、茜は不思議そうに首を傾げた。


「なんか嬉しそうだね?」

「まぁな……」


 一条はそう答えると、自分の部屋へと向かった。


 そして──ベッドに横になると、今日のことを思い出す。


(まさか……セリナさんと付き合うことになるとはなぁ……)


 そう考えていると──自然と笑みが溢れてきた。


(それにしても……キスってあんなに気持ちいいんだな)


 一条は唇に触れてみた。まだ感触が残っており、少しドキドキしてしまう。


(でも、これからどうするかな……)


 一条が頭を悩ませていると──部屋の扉がノックされた。


「お兄ちゃん、入るよ?」


 そう言って茜が入ってきた──手にはお菓子を持っている。どうやら差し入れらしい。


「はい、これ食べて」

「ありがとう」


 一条はお菓子を受け取ると、早速食べ始めた。すると、茜が話しかけてくる。


「ねぇ、お兄ちゃん……」

「ん?」

「その……何かあったの?」 


 茜は心配そうな表情を浮かべている。


「どうしてそう思うんだ?」

「だってお兄ちゃん、なんだか嬉しそうな顔してるから……」


 一条は苦笑した。どうやら茜には感情がバレてしまっているらしい。


「まぁ……ちょっとな」

「そっかぁ……」


 茜はそれ以上追及してくることはなかったが──何かを言いたげにしている様子だった。


 そして──意を決したように言った。


「ねぇ、お兄ちゃん……」

「ん?」


 一条が首を傾げると、茜は躊躇いがちに尋ねてきた。


「もし、悩みとかあったらさ……相談に乗るよ?」


 その言葉を聞いた瞬間──一条は嬉しくなった。自分のことを心配してくれているのだということが伝わってくるからだ。


(やっぱり優しいな……こいつは)


 そう思いながらも、一条は笑顔で答えた。


「大丈夫!」

「ほんと……?」


 茜はまだ不安げな表情を浮かべていたが──それ以上何も言ってこなかった。


(ありがとな……心配してくれて)


 心の中で感謝しながら──一条は幸せを感じたのだった。


◇◆◇◆


 翌日──一条が教室に入ると、クラスメイトたちが一斉に一条のことを見てきた。


(なんだ……?)


 一条は不思議に思いながら自分の席に向かうと──そこには一通の手紙が置かれていた。


「これは……?」


 一条は手紙を開くと──こう書かれていた。


『放課後、屋上に来てください』


 差出人の名前はなく、誰が書いたのかは分からなかった──が、間違いなく女子の字だった。


(一体誰なんだ……?)


 一条が疑問に思っていると──いつの間にかクラスメイトたちは、ヒソヒソと話していた。


「お、おい……あれって……」

「あいつ、いつの間にそんなモテてたの?」

「いや、知らんけど……」


 クラスメイトたちは、一条が告白されるのではないかと思っているようだ。


(勘弁してくれよ……)


「はぁ……」


 一条は大きくため息をついた。


(まぁ、でも……無視するわけにはいかないしな……)


 そう思った一条は放課後──指定された場所に向かうことにした。


◇◆◇◆


 放課後──一条が屋上に向かうと、そこには一人の女子生徒がいた。彼女は一条に気づくと、駆け寄ってくる。そして、一条の目の前で立ち止まった。


(へぇ……この子がそうなのか)


 一条は女子生徒の顔を見ながら思った。

 彼女は黒髪ロングヘアーの少女で、清楚な雰囲気を漂わせている。肌は白く透き通っていて、スタイルも良い方だ。


「あの……初めまして……」


 女子生徒は緊張した様子で一条に話しかけてきた。一条は笑みを浮かべて返事をした。


「初めまして」


(この様子だと……どうやら告白されるらしいな)


 一条は思わず苦笑した。


(まったく……勘弁してくれよぉ。俺には超超超美少女のセリナさんがいるんだから……)


 すると、女子生徒は再び口を開く。


「私、東雲しののめ玲奈れなと言います……」


(東雲玲奈……あれ? いつも誰かと一緒にいるような……)


 すると、東雲は早速本題に入った。


「それで……その、私……ずっと前からあなたのことが好きでした……!」


 東雲は顔を赤くしながら一条に告白してきた。


(あぁ……やっぱりか)


 一条は心の中でため息をついた。

 だが、ここで変に嘘をついても意味はないと思い、正直に答えることにした。


「ごめん……君の気持ちには応えられない」


 一条がそう言うと、東雲は俯いたまま黙り込んでしまった。


(さて……これからどうしたものか)


 一条が頭を悩ませていると、東雲は突然顔を上げた。その瞳からは涙が流れており、頰を濡らしていた。そして──彼女は絞り出すような声で言った。


「どうして……ですか?」

「えっ……」


 一条は困惑した表情を浮かべたが──東雲は構わず続けた。


「私……本当にあなたのことが大好きなんです……なのに……あなたは私のこと、嫌いなんですか?」


 東雲は懇願するような目で一条を見つめてくる──一条は困惑したまま答えた。


「いや、そんなことはないけど……」


すると──東雲は涙を流しながら叫んだ。


「だったらどうして断るんですか!?」


(えぇ……)


 一条は困惑した。

 まさかここまで食い下がってくるとは思っていなかったのだ。


「そ、それは……」

「それは……?」


 東雲がじっと見つめてくる。その瞳からは強い意志のようなものを感じた。まるで絶対に譲らないという気迫が伝わってくるようだった。


(困ったな……)


 一条は少し考えると──覚悟を決めたように言った。


「ごめん、やっぱり答えは変わらない」

「どうしてですか! 他に好きな人がいるんですか!?」

「そ、そういうわけじゃないけど……」


 一条は言葉に詰まった。正直に答えるなら──セリナとは昨日から恋人同士になったからだ。しかし、そのことを言うわけにもいかないので困っていると……東雲は再び口を開いた。


「だったら教えてください! なんで私じゃ駄目なのか!」

「そ、それは……」


 一条が言い淀んでいると──東雲は小さく笑った。


 そして、ゆっくりと近づいてくる。


「ふふっ、分かりました」


 東雲は妖艶な笑みを浮かべると──体を引き寄せてきた。


「なっ!?」


(俺の左腕に……胸が……!)


 一条が困惑していると、東雲は一条の耳元で囁くように言った。


「男って本当にバカな生き物よね」

「えっ……!?」


 一条は驚きのあまり目を見開いた。


(さっきと様子が──) 


「もういいかしら……神崎」


 すると、屋上の扉が開いて──笑みを浮かべた神崎が姿を見せた。


「いや~! 君の演技が上手すぎて感動したよ!」

「それはどうも」

「ど、どうしてお前が……」


 一条が呆然としていると──神崎が近づいてくる。

 

 そして、一条の肩に手を置いて口を開いた。


「リベンジしに来たんだよ……リア充のモブく~ん!」

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