Chapter.24 解決
その後。
盗賊たちを捕らえた俺たちは町まで戻ると真っ先に交通組合へ報告。後ほど話をしたいとのことだったので一度本棚のある家へ足を運んだが、今日はもう遅いのでということで謝罪のみ、続きは可能なら明日にでもということだったので喜んでそうさせていただくことにする。
これが本来の予定では、果樹園での仕事が続くこの三日間の間にいくらかの小銭稼ぎも行い、満了の頃には町を発つ腹積りであったわけだが、いまとしてはそれが先行き不透明になってしまった形だ。
罰金が地味に効いている。
とはいえ、それに関してはカトレアが怪しい魔法を使ったことに対する罰ではなく無許可フライトに対する罰だったのでホッとしたのもまた事実ではあるが。
「……大丈夫ですか?」
「気にしないで食え」
場所は移動して食事処。注文した料理を前にする。
右腕を動かすことができないので食事には非常に苦労した。左手で食器を持って口まで運ぶのだが、これがなかなかうまくいかなくて焦れったい。
腕が治るまでの辛抱か。
カトレアが重ね掛けをしてくれた治癒魔法の効果は一日で治る傷が一時間が完治するほどの効果になっているのだそうだ。切り傷や打撲はともかく、肩の損傷が二、三週間で治るとするなら少なくとも明日まではこの調子なのだろう。
パンはかぶりつけるのでいいのだが、シチューのようなものをこぼさずに食べるのが難しい。
右手を負傷した不便さを感じる。
「………」
「………」
不慣れなせいで時折食器の音を立ててしまいながらぎこちなく口に運んでいたりすると、見かねたカトレアが椅子ごと隣に回り込んでくるので怪訝な表情をして出迎える。
彼女は俺の右隣につくと、左手の食器を貸してもらおうと手を伸ばしてきた。
「仕方ない人ですね……」
「いや、求めてない。やめろ」
「大丈夫です。こういうのは得意なので」
「信じられないからお前の得意宣言」
む、と癪に触ったらしいカトレアがより意固地になって俺の手から食器を奪い取る。待て。
食事の補助はいらんて。さすがに。
「はい」
「……いいから。気恥ずかしいから」
「なにを言ってるんですか」
実際、慣れた様子で芋のペーストとほろほろに煮込んでほぐした鶏肉を掬った状態で食器を差し出してくるカトレア。
俺は遠慮するが聞き入れてもらえない。
「これは人体に必要なエネルギーですよ。治癒魔法の効果を高めるためにもきちんと食べて、さっさと寝てください、今日は。組合との話は私がするので」
「さすがにそれは俺も同席するけど……」
一人にさせられないし、なんて言ったらますます意固地になってしまいそうだったので言葉を呑み込む。
半ば押し付けられるようにして目の前に出される料理に、こんな時間を長引かせても地獄か……、と思い直した俺は意を決して食べようとした。
「はい、あーん」
「あーんやめろ。マジで」
「冗談です」
こいつ……。
悔しさやら気恥ずかしさやらないまぜにした感情で俺は食事を済ませることになる。
ああ、本当に苦痛な時間だった。
♢
それから、宿に戻ったところでさっそく組合員と憲兵の方々に呼び出されて組合本部へ逆戻りした。
そこで事情聴取を受けることになり、盗賊に襲われた経緯などを事細かに説明する。
終いには前回の情報提供から後手に回っていたことを深々と謝罪されてしまった。
それに関してはなんというか……盗賊が悪い。という結論しか持ち合わせていないので、「まあまあ仕方ないですよ」とお互いを慰め合うような感じでこの話は終わらせることになる。
盗賊たちは無事に引き取ってもらい、また盗賊の取引先らしき〝会〟についてなどは憲兵が独自に捜査を進めてくれるだろうから、俺たちが関わるのも正式にこれで最後だ。
禍根を取り除くことができて嬉しく思う。
「旦那も嬢ちゃんも見ない格好だけどどこから来たので?」
「まず旦那じゃないです」
おもむろに話しかけてきた組合員に俺は苦笑する。やめてほしい、そんなに老けてないから。
それから、やはり服装は目立つんだなと思った。いままで関わってきた人には特別なにか言われてはいないが、盗賊からは目立つ特徴だったんだろうし交易を担う彼らの目にはどこの地方のものなのかと特に印象残りやすいのだろう。
正直に言ってもよく分からないことになってしまいそうなので、俺が前に出て上手いこと嘘を織り交ぜて説明する。
「いやあ、長いこと旅をしてて……。俺たちフリーゲンまで向かう途中なんです。帝都を目指していて。そのときはここの馬車、利用させてもらうと思います」
「おや、そうなんですかい!」
思った以上に好感触な反応が返ってきて驚く。世間話程度にやり過ごせればと思ったのだが。
ちなみに、フリーゲンは俺たちが目標にする地方都市の名前だ。覚えておいてよかった。
「それだったら、お詫びじゃないけども、フリーゲン行きの馬車をお安くしておきますぜ旦那。必要なときこの切手見せてくれたら割引してもらうように周知させておくんで、どうでしょ」
「おおっ」
これは棚からぼたもちだ。思いがけぬ幸運に驚いてしまって咄嗟にいつものように遠慮してしまいそうだったが、振り返るとそれくらい貰ってもバチの当たらなそうなことは十分していると思ったので甘んじて受け取る。
そもそも盗賊にちょっかい掛けたの、見返り目的だったしな……。
逮捕まで漕ぎつけたんだからこれくらいいいだろう。うむ。
というか、むしろ。
「……ちなみに無料になったりしません?」
「むっ、無料っすか。無料、すか……」
悪いようにはされんだろうと思ってついついふっかけてみる。隣のカトレアが驚いたような顔をしているのが感じる。基本与えられたものをありがたがってきたので、俺の発言がまさかすぎたんだろう。
へらへらとした笑みを貼り付けながら気まずそうにする組合員の男性を前に俺も引かずお願いしてみる。
「ち、ちょっと確認してきやす」
「ありがとうございます」
引っ込んだのを笑顔で見送ったのち。
やがて俺たちのもとに戻ってきた男性は「い、良いっすよ! 無料でフリーゲンまで、はい。この切手見せてくれたらお連れするっす」と言ってくれた。
大勝利だ。思わず拳を握りしめる。
ガッツポーズ。
「いや助かります! ありがとうございます!」
「いえいえそんなそんなこちらこそもうもうありがとうごぜえやすおかげさまなんで! ハイ。今後とも、どうぞご贔屓によろしくお願いしやす」
「よろしくお願いします」
いやはや言ってみるものである。
気まずそうな顔をする組合員の前で俺はホクホク顔をする。さすがにこれは嬉しい。キキセラに持ってかれた罰金がチャラになったどころかお釣りが来る。
ついついカトレアと顔を見合わせて、二人して喜びを噛み締めてしまった。
「っし!」
いやしかし、三歩進んで二歩下がるじゃないが……。
ずっとこんな調子だ。高額転売狙えるかと思いきや失敗したり、泊まる場所もないかと思いきや宿のお婆さんが優しかったり、魔物狩り金策ができないかと思いきや果樹園で働かせてもらえるようになったり。
果ては罰金を取られたと思いきや、一度だけ馬車を無料で乗れることになった。
着実に前に進んでいるのを感じる。
それがものすごく嬉しい。
予定通り、三日後には町を出られそうだ。
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