3 本州某県某温泉街へ 上
霞がどういう経緯かは詳しく教えてくれなかったが温泉旅行が当たった事以外に、もう一つだけ想定外の事が有ったとすれば出張、もとい温泉旅行に行くのが一人ではなく二人だった事だろうか。
「えっと、改めて確認しますけど本当に良いんですね俺も着いていって」
「良いも何もペア宿泊券だからね。一人じゃ行きたくても行けないんだ。無事券を無駄にせずに済んで、尚且つ仕事に繋がるかもしれない。そうなれば白瀬君の経験にもなる。良い事尽くしだ」
道中の電車内でした問いかけに霞はそう返す。
まさかの自分も同行する形となった。
いくら偶然二人じゃないと使えない旅行券を持っていたとしても、普通に考えてあまり良くないと思う。
二人で何処かに出掛けるなんてのは全然良いが、今の自分達のような関係性で同室で寝泊まりというのはあまりに良くない。
(……ほんとこの人は警戒心が薄いというか、危機管理能力が低いというか……)
今までの諸々で危機管理能力云々が心配な人なのは分かっていたが、こういうところでもかと苦笑してしまいそうになる。笑い事ではないが。
もっとも事今回に限っては彼女の危機管理能力の低さだけが全てでは無いのかもしれないけれど。
何割かは自分に原因があるのかもしれないのだけれど。
(それはそれで困るけど、黒幻さんの危機管理能力の低さが全ての要因であって欲しいなぁ……)
もしかしたら縁喰いの一件の所為で、自分がこちらから全くそういう目で見られる事は無いとでも思っているのかもしれない。
……今は当然縁喰いに憑かれている訳でもないので、堂々と宣言するつもりは無いが、その辺は皆違って皆いい派なので、実際の所全く関係が無い。
こちらからすれば普通に美人な異性である。
で、そういう理由で隙を見せているのであればまだ良いのだが……最悪なパターンとして、そもそも男として見られていない可能性もある。
……当然、そういう風に見られたくて黒幻霞の元で働き始めた訳ではない。
ちゃんとした理由とは言えないかもしれないが、それでもれっきとした目的が目的があって怪異と関わっていく事を選んだのだ。
だけどそれはそれとして、あまり良い気分ではない。
というよりとんでもなく情けない気分になって来る。
……もっとも此処まで全ての事を普段通り考えた場合の話で、今は自分のそういう受け止め方が正しいのかどうかも良く分からない。
自分が怪異の影響で酷く自己肯定感が低い状態になっているが故に、そう思うのかもしれない。
自分ではそんな事は何もできていないとは思うが、気を許して貰える程度には信頼を勝ち取れるような行動を自分は無意識の内にやれていたのかもしれない。
だとすれば今の状況は色々な意味で悲観すべき状況ではなくなる訳だが……結局、その辺の答えは出せない。
出せてはいけない。
それを今すぐに正しく出せるようになるという事は、即ち今現在の白瀬真という人格が欠落し別の物に代わる事に他ならないのだから。
現状意識しなければ自分の事を、人から好意を持ってもらえるような何者かではない何者でも無い人間であると認識するのが、まさしく白瀬真なのだから。
まあとにかく、霞が自分をどう見ているかという事実を無理矢理変えるような行動を取るつもりは今回の旅行の中では無くて。
とにかく、霞の抱えている何かへのストレスを少しでも軽くする。
その為にエスコートできればいいなと、そう思う。
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