アンシンメトリカル・ラビット

たいたい竹流

古代異星文明

「ここがー、異星文明の基地かー」


アリスは感慨深げに周囲をぐるりと眺めつぶやく。

まだ少女のあどけなさを残した顔立ちが球形のヘルメット越しに見える。

白を基調に赤く縁どられた宇宙服ジャンプスーツに身を包んだしなやかな身体は、低重力でも危なげない足取りでステップを踏む。

頭部の2本のアンテナも相まって、そのシルエットは月面のうさぎを連想させる。


「その遺跡、だけどね」

あたりの風景をやれやれと眺めながら、ケイトが相槌をうつ。

薄い大気に包まれる地表から見た空は暗く、周囲には荒れ果てた岩場だけが続いている。

スレンダーな身体を包む左右非対称な青一色の宇宙服ジャンプスーツは、見た目よりも性能を重視した結果とはケイト本人の談だ。


「ようやく!たどり着いたね!!」

ボビーは大きく息を吸い込むと、大柄な手足を伸ばして屈伸を始める。

工業重機を模した派手な黄色い宇宙服ジャンプスーツのアクチュエーターが苦情を訴えるように伸縮する。

「宇宙船の移動は疲れた!でも!この調査が終われば!晴れて卒業単位満了だ!!」

その事実がよほどうれしいのだろう、ヘルメットの中は笑顔に満ちている。


「ボビー、あんたそんなに単位ギリギリだったの?」

「いやいやケイト姉さん!

大学生活は勉学だけにあらずですよ!

バイトにクラブにレジャーにイベント!

やるべきこにやりたいこと、どれも山盛りだったんだよね!!」

「その結果が今回の調査の駆け込み参加ってこと?完璧に自業自得ね」

「それを言われると返す言葉もない!!」

「あと姉さんは止めて。同い年でしょあたしたち全員」

「じゃあケイトちゃん!」

「グーパンするわよ」

「サー!ノー!サー!!ケイトさん」

「よろしい」


「二人ともー、すっかり仲良しだねー」

ケイトとボビーの軽妙な掛け合いをアリスは歩きながらニコニコと眺める。

短い期間の研修だが、人間関係が良好であるに越したことはない。


「ほらザック君もー、早く早くー」

小型着陸船のタラップが閉じるのを最後まで確認していた細見の青年は、その声で振り向く。

「あぁ、今行く」

低重力にも関わらず、無駄のないの動きで移動してくる。

薄紫の宇宙服ジャンプスーツは動き同様に装飾も無駄がなく最小限だ。


(星空に溶け込んでしまいそうだなー)

そんな感想をアリスが抱いてしまうほどに。


小高い丘のようになった岩場のふもとをしばらく歩くと、地面が切り取られたように人工的な直線通路が唐突に現れる。

地殻変動の結果、かつては地下にあった建造物が地上へと隆起しているのだ。

いまだ謎に包まれた古の文明の名残がそこに確かに存在している。

そのことに今さらながら興奮が湧き出す面々。


「さて!古代異星文明の!基地探検と行きますかね!!」

「だから遺跡だって。すでに何百回と調査して、何もないことは確認済み」

「今回の課題はー、調査の練習って感じだよねー」

話しながらも、4人は探索用のARソフトを立ち上げる。

頭部に被った球体状のヘルメット内部に、インジケーターが表示され各種計測が開始される。

視線を対象に合わせ命令すれば、測定結果を自由に呼び出すことが可能となる。


「練習でも探検は探検!異星人の遺跡!テンション上がるよね!!」

「はいはい、行くわよ」



異星文明。

宇宙への進出を果たした人類はその痕跡を見つけ歓喜した。


我々は孤独ではなかったのだと。

宇宙は生命で満ちているのだと。


しかし古代の遺跡の痕跡が残るばかりで、実際の生命体に出会うことはなかった。

彼らは滅びてしまったのか?

あるいは更なる外宇宙へと旅立ったのか?

はたまた新たなる姿へと進化し、我々人類には認識できない姿となったのではないか?


様々な憶測が考えられたが、どれも確証には至らなかった。


時は流れ、古代異星文明の研究は新たな学問として確立された。

調査を通じて宇宙の未来に思いをはせる。

その経験は若者たちの経験となり血肉となるだろう。

星を跨ぐ文化圏を有するに至った人類は、星間大学連合を形成。

それぞれの学び舎から有志を募り、調査隊として遺跡の調査を行う事をカリキュラムの一つとして設立した。


最新鋭の宇宙服ジャンプスーツ

様々な病理を分析可能なメディカルシステム。

情報の解析・表示・交信をサポートするAR技術。

多重の安全装置が組み込まれたオートパイロット宇宙船。


幾多のサポートが支援する中ではあるが、

若者だけの力で未知を解き明かす経験を与えたい。

それが創立者たちの崇高な理念だったのは間違いなかった。



「ロガー起動。『第32回星間大学連合合同調査隊、遺跡の調査を開始します』」

「あー、ザック君ずるいーそのセリフ私が入れたかったのにーー」

「はいはい、行くわよ」


いささか危機感に欠けた空気の中、真空の通路を4人は進んでいく。

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