過去改恋

KASMIN

第1話 季節の風は寒々と

 この季節になると思い出す。「もしも……」ありえない可能性を妄想しては否定する。人肌が恋しくて、そっと触れてみるけど気持ちには気付いてはくれない。あれから何年経ったのだろう。振り返ってみれば学生時代の恋は、なんて「甘酸っぱい」のだろう。


 誰よりも近くて、いつも側にいたのに向き合うことは叶わなかった。明るい笑顔も甘い声も全部輝いて見えたのに、あの頃の思い出は色の抜けた写真のように淡い。


 もし勇気を出して告白をしていたら……今なら方法をいくらでも思いつくけど、実行に移すことはできなかったんだろうと思い返す。


 やり方なんていくらでもある。間違えたふりをする、偶然を装う、脈ありアピール、推して押して攻めまくる。自分から行動できる積極性があれば何か変わっていたのかもしれない。上手く言い訳を作る「ずる賢さ」があればもっと前向きになれたのだろうか。


 そんな相手はもういない。恋愛のゴールデンタイムは学生時代なのだ。今を後悔したって過去には戻れない。優良物件は成約済み。条件が良くなると思い込むのは幻想。突き付けられる現実と向き合ったところで、何も元には戻らない。


 忘れられなくても理想だったと美化しても同じものを手にすることはできない。例え同じようなものを手にしたとしても違うのかもしれない。複製された姿形をしてたとしても恋することができるだろうか。


 帰り道に吹く風は冷たく、1人イルミネーションを見ながら今年も一人かと感傷に浸る。大人になってからの逃げ道はアルコール。コンビニに寄っていつもより強めのお酒を手に取る。


 暗い部屋に帰りを待つ人はいない。実家にいるペットが恋しくなる。週末は出掛けてみようか。気付けば毎日家と職場の往復、動画を見ながらゆっくり過ごす。どこかの週刊誌で見たような記事の見出しだ。


 楽な方、楽な方へと逃げてばかりで立ち直るメンタルもゼリーみたいにぷよぷよ。身近なだれかで妥協しようか何て思ってはみるものの都合よくいい人はいない。理想を追いかけ我慢して未だに芸能人を追いかけてる先輩を見てきた。今はあんな風になってしまう自分が想像できて怖い。


 もう一度チャンスを与えられれば人は変わることができるのだろうか。そっと昔の日記に続きを書き足す。

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