【21・カイモノ】

 商業ギルドから出た私達の次の目的は買い物だ。ショッピングと言えないのが悲しいところ。


 だって、この身体じゃ可愛い服もアクセサリーもメイクも出来ない。くそぅ……なんで、お猫様なんだよぉ……。



「本当に明日から行くんだよね?」


「まったく、しつこいねぇ。アンタは着いてくるだけで、いいんだよ。強者とアンタには今は差がありすぎる。今は、その空気と緊張感に慣れな」


「……うん。一応、魔素の森とかで慣れてはいるんだけどなぁ」


「甘いね。アンタらが行き来しているのは、魔素の森でも序盤さ。ゼルバやリカルド達でも中盤で何とかだろうね」


「父さんやおじいちゃん達でもか……」



 商業ギルドを出たので、私は元の姿に戻り市場へと歩きながらそんな会話をする。


 まぁ、本人は知らないが、魔力の埋蔵量は多い。術とコントロール、使い方が分かれば、かなり化ける。転生の影響だと思うけど、力はあっても使え無ければ、意味無しだからまぁ、追々教えるか。


 それよりも、今はせっかく市場に来たんだからいざ楽しまないと!



「おや、あの串焼き肉、美味そうだねぇ」


「あ! こら! ポーションとか解毒薬買わないとなんだから!」



 匂いに釣られてあっちへふらふら、こっちへふらふら。ショッピングは出来なくても買い食いは出来るし、冷やかしも楽しいから、まぁ、いいか!



「あー……せっかくの資金がぁー……」


「なに、小さい事言ってんだい。また、魔物でも狩って売ればいいだろ?」


「元は人だったんでしょ?! 少しは自重したりしないわけ?!」


「私は今、フェアリアルキャットだよ?

 人間の都合なんて知らないねぇ。言っただろ? せっかくの異世界なんだから楽しむって。 ……第一、そんなに買い込んでどうするつもりだい? せいぜいかかっても、3日もあれば充分さね」


「楽しむにしてもお金払うの僕なんだけどっ!……って、え? それだけ?」


「はぁー……呆れた。 私を誰だと思ってるんだい。 買い込むなら、食料と水分ぐらいで、あと、持ってくなら着替えぐらいで足りるよ」



 色々と買い込んだり買い食いもして、休憩のために広場のベンチへとリューリは座り、私は買って貰った果物にかぶりつき食べていた。


 しょうがないじゃん。この身体だとお金掴めないし、必要ならまた、狩ってくるからさ!



「それにしても、一体何をそんなに買い込んだんだい?」


「えー? ポーション、解毒薬、食料、調味料、水、あとは…………」


「ちょいとおまち、まだあるのかい?」


「だって、王都に行くのとは違ってブラックサーペントを狩りに行くんだよ? 準備にやりすぎっていうのはないだろ?」


「リューリ、さっきも言ったが、私が居るんだ。その買った物は人間だけでパーティを組む時にでも使いな」


「で、でもっ……」


「でもじゃないっ! 私の言う通りにしなっ! アンタに必要なのは、食料、調味料、水、ポーション、着替えぐらいだ!

 他は要らん!」



 話を聞くとたかが、3日ぐらいの日程には過剰過ぎる程の荷物で心配し過ぎだ。いくらマジックボックス持ちとはいえ、多すぎる。


 私がリューリの目の前まで顔を寄せ噛み付かんばかりに口を開き脅せば、やっと諦めたよ。



「後はマジックポーションが売ってれば、多めに持って行きな」


「……え? なんで?」



 伏せしていた体勢から起き上がり、耳を動かし遠くから此方に走ってくる足音と騒ぎの音を拾うとリューリの前に守るように出て、騒ぎを見据えた私。


 リューリは、騒ぎには気付いたが何が起こっているかはわからない様子で、私を見上げてどうした? と問いかけてきた。



「なぁに、腹拵えの軽い運動さね。……リューリ、アンタにはこの3日で、魔法の使い方とコントロールを私から教えてやろうじゃないか。手始めに、アンタの飲みかけのその水を前に投げるんだなるべく高く遠くにね」


「え?わ、わかった」



 リューリは、不思議そうにしながらも私の言う通りに水の入ったカップを投げた。当然、普通ならそれは水を撒き散らし落ちるが、そうならなかった。



「いいかい。 リューリ、よくお聞き。 魔法ってのは、何がなんでも無から出す事はないんだ。 そりゃ、無から出せば色々と有利なのは間違いないさ。 でもねぇ、周りの環境に合わせて使える物は使って魔法を補助にするのだっていいんだ。 今なら水を主力にして水魔法を補助に使う。 すると、こちらの魔力消費は少なくてすむんだよ」



 騒ぎが近付いて来ると、引ったくりだの、捕まえてだのと聞こえてくる。


 私は、リューリにそう話しながら引ったくり犯に水魔法の水の檻を発動した。すると、水は球体の網目状に広がり、それでいて水流の動きは早く鋭く動き続け、引ったくり犯を捕らえた。



「きれー……」


「ふん。 あの流れている水の半分はアンタが投げた水さ。 私は、足りない分の水とああやって維持するだけの魔力しか使って無いよ」



 追いついて来た兵士と被害者が、水の檻アクアジェイルの周りに集まるのを見ながら、リューリに説明したのだった。



「この魔法を使った者は解除してくれないか! 直ぐに捕らえる!」


「……はいはい。 リューリ、アンタの魔法には無駄に力が入ってる。それじゃあ、大事な時に魔力切れしちまうからねぇ。この3日でそこら辺を教えるさ」



 未だにジッーと水の檻アクアジェイルを見ているリューリの頭を尻尾で軽く叩いて正気に戻しつつ、兵士の言葉に返事をした。



「うわぁー……。な、なるほどね。が、頑張ります」



 叩かれた頭を摩り、私を見上げるリューリは引きつった笑みを浮かべながら頷いたのだった。

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