【12・ギルド】


 おばちゃんが奥に行くのをカウンターでしばらく待っていると、ガッチリとした体格で隻眼の無精髭を生やした中年の男性が、カウンター奥にある2階から降りてきた。



「待たせてすまねぇ。今日はどうした?」


「いえいえ!こちらこそ、お忙しい中ごめんなさい!昨日はご迷惑をお掛けして申し訳ありません!」


「いいって事よ。何かあった方が大変だったんだからよ。……お前さんがフェアリアルキャットか。実物を見るのは二度目だぜ」



 私を見上げて感心するように声を掛けてくるギルマスに、記憶を手繰り思い出そうとするが、思い出せない。



「え?!アリアを見た事あるんですか?」


「現役時代にな。まぁ、色々聞きてぇ事があるから奥に来な」



 ギルマスの案内で奥に行こうとするが、リューリに止められた。え?まさか、お留守番?



「アリア、小さくなって?」


「え……嫌だね。別にこのままでも問題ないだろう?」


「ダメ。言う事聞かないと、生肉だよ?」


「ひっ……うぬぅぅ……」



 まさか、ここでそれを出してくるなんて、酷いじゃないか。リューリに言われ渋々変身をしてあのフォレストキャットのサイズになる。



「ヘレン、一緒に行く?」


「うん!」


「あの、フェアリアルキャットが言うこと聞いてやがる……」



 私たちのやり取りを見ていたギルマスは感心したように呟いたのを聞いたが、生肉イヤ…と小さく震える私はそんなことに構ってられなかった。



「あー……まぁ、あれだ。聞きてぇ事ってのはフェアリアルキャットを従魔にしたってのは本当か?」



 ギルマスの部屋に着くとソファに座るよう促され、私たちはギルマスと向かい合うよう座るが、私はヘレンちゃんの膝の上に座った。


 そんな私を見ながらギルマスは問いかけてきた。


 ……あ、ヘレンちゃんの撫でる手つき気持ちいい。そこそこ、もっとカリカリして……。


 まぁ、私は、完全にヘレンちゃんの魔の手でダレてまったりとしながらだけどね。



「ハハッ……まぁ、いきなりなっちゃいました」


「そんな、簡単になれるもんじゃねぇぞ?まだ、Aランクとかの魔獣なら話は通るが、相手は伝説級の魔獣。幾つも、逸話を持つフェアリアルキャットだ。それを、子供でランクはDのお前さんの従魔?報告を聞いた時は、何かの冗談かと思ったぜ。……一体、どんな魔法を使ったんだぁ?」


「えー……僕、何もしてないです。むしろ、アリアが勝手に従魔契約したんですよー…」


「……勝手に?フェアリアルキャットが?」


「ちょっと、ヘレンの膝の上でダメ猫になってないで、ちゃんと説明してよ」



 まったく、ダメ猫って失礼な事いうよ。ヘレンちゃんの手つきが、気持ち良すぎなのがいけないだけなのに…。仕方ない、ここは、フェアリアルキャットとしてビシッと言わないとね!



「……そうさねぇ。私が自らリューリと従魔契約は結んだよ。それが、何か問題でもあるのかい?」



 優雅にヘレンちゃんの膝から降りると、毛繕いをしてギルマスを見上げて問いかけた。


 ヘレンちゃん、物足りなそうに手をワキワキしないで。私、今、カッコつけてるの!



「……そりゃ、誰でも出来るのか?」



「否。私が認めて、充分な素質がないと話にならないよ」


「素質?そりゃ、なんだ?」


「さぁねぇ。教えるわけないだろう?まぁ、一つ言えるのは、この子の傍に居たら面白そうだからかねぇ」


 契約してわかった事もあるが、簡単に言っていい事でもないし、この場で言うつもりもない。



「はぁーー……なんだよそれぇ……」



 疲れたようにソファに沈むギルマス。あら、数時間も経ってないのに老けてみえる。



「まぁ、その……僕としてもよくわかってないので」


「だろうなぁ……」


「とにかく、私はリューリの従魔になったんだ。なんか、しなくちゃならない事あるんだろう?」


「あぁー……うん。従魔登録だな」


「……お、お願いします」



 なんだか、投げやり気味なギルマスに気まずそうなリューリ。誰だろうね!この空気にしたのはって、私?いやいや、本当の事を言っただけだよ?

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