【1・オワリとハジマリ続】

 脳内で駆け巡るソレを人は「走馬灯」と呼ぶのかなぁ。って、何処か他人事のように私は思っていた。


 激しい衝突音とけたたましく鳴るクラクション。


 それらを何処か遠い音のように聞きながら暴走車は止まったのかな?って考えた。



「ぁっ…… ぁっ…… ぉ、お姉ちゃんっ!」



 あちこち痛過ぎて麻痺してきたけど、血も流れている感じもする。


 そんな私に先程、突き飛ばした少年が駆け寄ってきて、涙でぐちゃぐちゃに泣き腫らしながら私を見下ろしていた。


 周りの大人もスマホで助けを呼んだり、止血しようとしたりしているのが、何となくわかる。




 ーーー 私、死ぬんだ。




 漠然とだが、痛みを感じなくなってきたし、力が上手く入らない。目も霞んできた。



「ょ、良かった……。ケガはない?」



「ぅ゛、う"ん"っ! お、お姉ちゃんが助けてっ… くれたからっ… ヒクッ… だい、じょうぶっ… っ!」



「ヒュッー… そっか…… 頑張ったかいがあるね……。ゴホッ…… でも、何処か痛かったらちゃんと…… 言うんだよ?」



「ぐすっ… うんっ…!」



 あーぁ、そんなに泣かないで欲しいけど、生憎、私はもう何も出来ない。




「おい! しっかりするんだっ! 救急車がもう少しでくる!」



 誰かがそう言ってくるけど、恐らく間に合わないと思う。



「ゴホッ!…… はぁっ…… せっかく、買ったのに続きが読めないなんて最悪っ……」


「お姉ちゃんっ! 助けてくれてありがとうっ! ぐすっ…」



 遠くでサイレンを聞きながらボヤいていると、少年が泣きながらお礼を言ってきた。


 意識が朦朧としてきた中でのその言葉に、私は嬉しくなり笑えてるか分からないが、笑顔をみせた。



「お礼が言えて…… 偉いね…… そうだ……っ…… 私、今日ね、マンガの単行本を買ったの…… それ、良かったら読んで……? お姉ちゃん……って歳でもないけど…… そう言ってくれて…… 嬉しいなぁ……」



 私は最後の力を振り絞りそう言うと、力が抜けて目も開けられなくなり、逆らう事なく意識を手放した。








 ♢♢♢




 ーーーぴちょんっ…… ぴちょんっ…… ざぁっー……






 一定の間隔で音が聞こえる。雨のような音も一緒にする。


 あー…… 傘、持ってないや。本降りっぽいなぁー……。


 ん?…………『音』? なぜ? おかしくない?さっきまで降ってなかったし、降る予報も出てない。


 脳内で? を大量に出しながら私は助かったのかな?と考えると、意を決してゆっくりと目を開けた。


 すると見えてきた光景に私は固まってしまったのだ。



「えっ?……… どういうこと?…… 病院? んなわけない。てか、ここ何処?」



 ゴツゴツとした岩肌。


 床も天井も壁も病院とはかけ離れた光景。


 まるで、洞窟です! って感じで遠くには森っぽい景色。


 雨が降っている為、湿った匂いもする。



「…… うん。何処だよ!? 病院は!? はぁっ!? えっ!? 意味わかんないっ!」



 パニックになり一人叫ぶように、声を荒らげながらもなんとか状況整理しようとする。


 そして、キョロキョロと見回して身体の痛みもないため、立ち上がろうとしたら身体に違和感。四つん這いの形にスっと立ったのだ。


 ただ、抵抗はなく自然と立てたのだが、自分の身体を見て更に驚いた。



「な、な、何これーー!?」



 白っぽい毛並みに四足動物の足。しかも、デカい。


 試しに右前足を軽く上げれば自然と上がり、代わりに左前足を上げれば、そちらが上がる。


 恐る恐る後ろを見れば、白っぽい毛並みの長毛と長くスラッとした体躯。極めつけはユラユラと揺れる尻尾。




 ーーー 意味わからん!!

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