【理論上レベル1でも魔王を倒せる最強(笑)のネタキャラ】に転生したので、魔王軍ルートを開拓したい

杯 雪乃

理論上最強(笑)

理論上は最強のネタキャラ


 理論上はレベル1でも魔王を討伐できるキャラって知ってる?


「おぉ!!勇者だ!!勇者がこの村から生まれたぞ!!」

「これで我が国も魔王軍に打ち勝てる!!」


 とある小さな村にある教会で、“選定の儀”を行っていた神父が声高らかにそう叫ぶ。


“勇者”


 それは女神からの加護を受け、人々をありとあらゆる脅威から守る守護者。


 魔王軍との戦争が苛烈し始めたこの王国、リバース王国ではここ十年近く勇者が生まれていなかったことを考えれば、神父達の喜びようもよく分かる。


「勇者?ふん。よく分からんが、それが僕の職業か」


 唯一、勇者本人は何が何だか分かってないようだけどね。


 そして、その様子を見ていた俺は、誰にも聞こえない声で小さく呟いた。


「あぁ、やっぱりこの世界は“ヘルオブエデン”の世界なのか........んで、勇者の次に選定を受けたくないんだけど」


 このゲームをそこそこガチでやっていた俺は知っている。女神の加護を受けた5歳児の金髪蒼眼の少年“アラン”の次に選定を受ける黒髪黒目の少年“ノア”の職業と、その性能を。


 かつてヘルオブエデンのゲームをやっていたユーザーから、なんと呼ばれていたのかを。


「“理論上最強のネタキャラ”“過労死(プレイヤーが)待ったナシの召喚術士”“理論上はレベル1でも魔王を倒せる最強格”........ノア。この世界の人々の特徴と、名前から察していたけれど、俺はネタキャラかよ」


 女神様。悪いけど今から俺は、乱数の女神を信仰するからよろしく。




【選定の儀】

 この世界の人々が5歳になると教会で受ける儀式。簡単に言えば、人々の職業がここで決まる。“勇者”のような職業から“木こり”の様な職業まで様々であり、この世界の人々は女神様から与えられた才能だと確信している。




“ヘルオブエデン”


 あまり有名なゲームタイトルでは無いが、そこそこの人気を博していたゲーム。


 若干古臭いグラフィックからは考えられないほどの戦略性がウリであり、ストーリーこそゴミ(賛否両論ある)だったがそのシステムだけは誰もが評価した神ゲー。


 それが“ヘルオブエデン”だ。


 俺も話題になっていたので試しに買ってみたらガッツリとハマった。


 レベルが低かろうと、攻略法が分かっていればある程度はなんとでもなるし、プレイヤーが操作できるキャラは基本ちゃんと育てれば誰でも強い。


 4人パーティー構成でそれぞれの役割を持っており、そのキャラ毎に固有の能力を持っているから育てても滅多に腐ることは無い。


 最高難易度になるとそうも言ってられないが、少なくとも普通に遊ぶ分には素晴らしいゲームであった。


 で、そんなゲームを今日もやるかと思ってゲームを起動したら赤子に転生したのである。なんでやねん。


 懐かしみを覚えつつ、勇者の次は行きたくねぇなと思っていると、神父が俺を呼ぶ。


 その目には、期待が見え隠れしていた。


 勇者が出たのだ。次の子にも期待してしまうのが人間と言うものだろう。


「では、この水晶に手を当てて女神様に祈りなさい。大丈夫、女神様は君達の事をいつも見守ってくださっているよ」

「........はい」


 俺は言われた通りに水晶に手を置くと、水晶が眩い光を放つ。


 が、そんなことはどうでもいい。自分の職業は分かってるから、今はどう生きるかを考える時間をくれ。


「召喚術士........君の職業は召喚術士だ。研鑽を積み、最上位の召喚術士になれば伝説のモンスター、ドラゴンすらも呼び出せる。頑張るといい」

「はい。ありがとうございました」


 その目に映るは失望。


 できる限り優しく接してくれてはいるが、間違いなくこの神父は俺に失望している。


 そういえば、公式ガイドブックでこの世界の召喚術士は地位が低いとか書いてあったなー。


 こちとら理論上最強ぞ?レベル1でも魔王を倒せる最強の召喚術士ぞ?ネタキャラだけど。


 そんなことを思いつつ、俺は教会を出ていく。


 保護者は教会の中に居ない。


 この選定の義に入れるのは、神父やその手伝いをする聖職者と職業を授かる子供だけなのだ。


「さて、どうしたものかねぇ........」


 俺はそう言いつつ、自分の情報を整理することにした。


 ヘルオブエデンには、運営がお遊びで作ったキャラクターがいくつか存在する。


 その中の1つが、俺が転生した“ノア”というキャラ。


 職業は召喚術士と言われるモンスターや武器を召喚して戦うキャラクターであり、しっかりと育成すると最強格の強さを誇るドラゴンすらも呼び出すことが出来る。


 しかし、このキャラはネタキャラ。


 ドラゴン?ナニソレオイシイノ?と言わんばかりの、酷い性能を持っている。


 召喚できるモンスターは雑魚ばかり。最初のレベリングでお世話になるようなモンスターしか召喚できない上に、どれだけ育てようと召喚できるモンスターの種類が増えることは無い。


 では、なぜユーザー達から“理論上最強”と呼ばれているのか。


 それは、このキャラの固有能力スキル運命の審判ラッキーミス”が関係している。


“確率50%で敵の攻撃を回避”


 ゲームではどう考えてもぶっ壊れの能力を持っているからこそ、彼は理論上最強と言われるのだ。


 しかも、必ず当たる系の攻撃まで避けやがる。


 フィールド全体に攻撃をしてくる魔王の最終兵器すら確率で避ける。


 どうやって避けてんだよコレ。と思うような攻撃まで避けているのだが、それは“ゲームだから”で納得されていた。


 そして、このゲーム。システム上どれほど弱い攻撃でも、どれ程レベル差があろうとダメージが0やミスと表記される事がない。当たれば、最低でも1のダメージが通るのだ。


 まるで運営が“ノア単騎で攻略してね”と言わんばかりに。


 全部の攻撃を避けて、ダメージ1を通し続ければ理論上誰が相手でも勝てる........訳ねぇだろいい加減にしろ!!


 他にも最強たる所以はあるのだが、大きな要因はこの能力だろう。


 故に、ノアはネタキャラでありながら“理論上最強キャラ”と言われるのだ。


 相手の攻撃を全部避ければ理論値を出せば、最強。


 この性能に惹かれたユーザーは数しれず、人気投票ではストーリーに殆ど関わりがないのにも関わらず第六位。


 中には、乱数の女神を味方につけて“絶望級ノア単騎魔王攻略”なんて言う気の狂ってる動画まで出てくる始末。


 難易度“絶望”(最高難易度)でやるとか正気の沙汰では無い、セーブポイントからやり直しコンテニューが無いから死んだらゲームリセットだぞ。


 動画投稿者が滅茶苦茶喜んでいたあの声は今でも忘れられないな。


「ノア君。どうでしたか?」


 頭の中でノアについての情報を纏めていると、教会から出てきた俺を出迎えてくれる1人のシスター。


 主人公たる勇者やその他ユーザーが使えるキャラを育ててくれた“聖母”、シスターマリア。


 そのたわわな胸と、誰もが惚れるであろう優しい笑顔に殺られたユーザーは多く、人気投票で第三位を獲得した通称“俺達のママ”又は“人間側唯一の良心”。


 この世界に転生した時にリアルで見てビビったわ。その金髪の長い髪と、女神が創造したとしか思えない整った顔立ち。ユーザーが“ママの子供になる!!”と錯乱するのも無理はない。


 俺を森の中で見つけ、救ってくれたことは今でも感謝している。


 ヘルオブエデンをやろうとしたらこの世界に転生してたからな........しかもゼロ歳児の赤子で。


 拾われて無かったから、今頃俺はあの世に居ただろう。


「召喚術士だったよ。アランは勇者だって」

「えぇ、聞きましたよ。孤児院から勇者が出てくれるなんて嬉しいですが、世界の命運を望まずして握らされるのは辛いでしょうね........」

「アランは強いよ。大丈夫」

「ふふっ、そうですか?私は、アラン君よりもノア君の方が勇者に相応しいと思いましたけどね」


 何を言ってるんだシスターマリア。


 20近くの大学生が勇者になったら、魔王を倒す前に引きこもりになってるよ。


 と言うか、人間側のストーリーはクソすぎて助けてやろうと言う気にならん。なんでゲームシステムは素晴らしいのに、ストーリーはクソなんだ。


 そういえば、シスターマリアも死ぬイベントがあったよな。何とかして防げないだろうか。


「俺は勇者にはなれないよ。アランの様に、何かと威張ってる奴の方がお似合いさ」

「あはは。ノア君はやっぱり面白いですね。ともかく、お疲れ様でした。今日は、勇者が生まれた記念としてパーティーでもやりますか。他の子達の儀式も終わったら豪華に行きましょう」

「お肉でる?」

「もちろん出しますよ」

「やった!!」


 こうしてリバース王国に新たな勇者が生まれた。


 そしてそれは、ヘルオブエデンのメインストーリーが始まる合図でもあったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る