やれやれ・不殺・鈍感はゴミ箱に捨ててきた ヒャッハー、宇宙ゴブリンは消毒だー
マルセークリット
1章 メインストーリー
第1話
「で、俺たちはどこに行くんだ?」
「南方だ。議会は志願民や流刑民を使って開拓地を広げているからな」
「ふーん」
商家の3男だというエルフ中年は興味なさげに返事をすると腕を組みグーグーと寝息を立て始めた。車内には5人が押し込められている。全員、拘束はされていないが左側にあるドアは外側からしか開かないようになっている。まぁ逃げられるとしても頼れるものもいない俺達に逃げる場所なんてないんだが。
━1か月前━
「ふっ、これが異世界転生ってやつか・・・」
体の成長としては20中頃だろうか?俺の隣にいるスキンヘッドの青年が何かブツブツ言っている。
ここはどこだろうか?気が付くと見知らぬ石室にいた。
天井を見ると完全に光が漏れておらず、部屋の随所に光源が据えられている。
「(地下だろうか?)」
薄明りだが周囲には7人がおり、うち4人は藤色の同じ服装をしている。
皮鎧を着こんだ2名に囲まれ、目出し帽のように作られた鎖帷子を被った男(所作を見るに、高官だろう)が歩み出てきた。
「4名にはこれから吏員より説明をする。その後、1か月内に議場において救世の儀式を執り行う」
そういうと3名は我々を誘い出口へと向かった。
ところで 俺は 誰だ?
-別室-
「お前は何か楽しそうだな」
2:2で別れてソファに座ると隣にいるスキンヘッドの青年がニヤニヤとしている事に気が付いた。
「あぁ、俺は過去は振り返らない。1分後に必要ない事は1分のうちに捨てる、俺はそうして生きてきたからな」
「それは殊勝な心掛けだ、ところで、お前はどこから来た?」
「34地区だ」
「俺は2地区だ」
右隣のソファには2名の女性体がいる。割とガタイがいい。もちろんこれは筋肉的な意味だ。
その後、何分か集められた4名との会話でわかったことは全員が不可触民居留区から来たらしく、いずれもヒュームだということだ。
この
不可触民居留区はだいたいが国内の山間や川に挟まれた隘路に設置されている。都市に近い隔地であれば人の往来もあり活気が多少あるが同時に管理も厳しく、僻地では物資をほぼ自給自足で調達するが管理も緩い傾向にあると聞く。
そんな雑談をしていると貫頭衣を着た3名と、皮鎧を着こんだ2名がドアを開け入ってきた。
「では、これより説明をする」
ゴブリンとは先史時代、自身の惑星において資源を貪り食い惑星を放棄し宇宙の流民として放浪の末、ここ惑星ヴァンダルギアへ来た侵略的外来生物だ。5000年前の不時着時にエルフの一部が住居用の建材などを提供したところ、わずか200年で人口を1000倍まで増殖した挙句、生活物資を原始的武器に変換し反乱を起こした。それ以来、人里へ降りてくればゴブリンは害獣として駆除される。自称を地球人ないしは太陽系ヒューム。
「なぜこのような説明を行うか、まず諸君の由来を明らかにする必要があるからだ。君たちは自然に産まれた個体ではない。もちろん現代の世界人口の60%は人工子宮により産まれているので自然に産まれた個体とは言いにくい。そうではなく、君たちは駆除された害獣などを素体として生み出された人造生命体だ」
「それは人工子宮から産まれた場合と何が違うのでしょうか?(スキンヘッドの青年)」
「大きな違いは脳を素体利用することで成体までの時間を大幅に短縮できることだ。生物が生物たりえるのに一番時間がかかるのは?それは生活環に混ざれるまでの学習時間だ。生物は生活水準に必要な学習時間を要する。ネズミのような単純な生活環であれば1か月、人類であれば種族によるが15~18年。人類は生物の中でも学習時間が長期である。これを成体組織を利用することで大幅に短縮することができる。ただし人造体は身体機能が素体の元の状態と変わる。それが特に組み立て直後に素体脳内に記憶された感覚、言語、計算、運動といった学習領域と記憶領域を完全には分割できないため従前の記憶と現状の混濁が起こる。こうしたことを考慮しても人造生命の学習時間を我々は3年と見積もっている。人工子宮の場合には通常と同じ15~18年必要だ。」
「それで私たちに何を望んでいるのでしょうか?(スキンヘッドの青年)」
「ふむ、話が早い、」
そういうと吏員は卓上に丸い世界地図を置き、説明を続ける。
「赤道上に位置するレキスネント大陸、95%が人類の居住に適さない荒涼とした砂漠地帯が広がり、野生生物の他に
(ふむ、つまり我々はゴブリンないしはゴブリン軍側に立つヒュームへのスパイとしての仕事が望まれている訳か・・・どうでもいいな)
俺は説明している吏員の顔を見ながら心の中でつぶやいた。
会談中、こちらの事情は一切聞かれなかった。つまり、彼らはこちらの事情は一切考慮していないということだ。自分たちの利害をツラツラと述べる姿からも、協力することを確信しているのを感じる。つまりこの時間は我々が自身を”彼らの指示に従う”という事を納得させる理由を提示しているだけなのだ。
俺「もし協力しないと言ったらどうなる?」
「もちろん我々は文明人であり、例え人造生命体としても獣ではないのだから強要する権限はない。ただし国家事業に協力することで我々は君らに便宜をはかれるのだという事は理解していただこう」
俺「なるほど、」
「いいか、君たちの見た目は只人だ。今は野獣と判別するために踝に認識票を埋め込んでいるが、協力しなければ自由な
「別に生き物なんてのはそんなものだろう。皆なにかしら鎖につながれている。鎖に繋がれたことを嘆くのは野獣だけだ」
隣のスキンヘッドの青年も『やれやれだぜ』という風に答え、それから右側に座った二人も見てみたが従うことに異論はないようだ。
「理解していただけたようで何よりだ、同胞よ。素晴らしい君たちは今日から同胞だ!だが悲しい事だが特別待遇はできないことは許してほしい。君たちがやることは敵へのスパイ活動に等しく、もしもの場合は生体情報で確認する時間がない場合は警告なく射殺される場合がある。君達を優遇すれば内偵役と認識される可能性があるからだ」
そういうと説明役の吏員は一息おき、
「さて、不服のものはいないかな? これより後、我々の意向に反する行動は反逆分子と見做されることになる」
一息の間が流れるが、異を唱える者はいなかった。
「さて、では君たちにはコードネーム、いや、ヒューム流には名前というのだったか、を付けよう。これまでのように名前もないのでは不都合だろうからな。」
それでは右から、と声をかけ
「スイ」
「アサ」
「ヨナ」
「エレ」
こうして俺の名は「スイ」となった。
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